第142話 スケブ描いちゃった

 カナタと手分けして目当ての本を冬の祭典で買い集める俺。


 そして、目当ての本を買い終わった後で知り合いのサークルのとこにでも顔を出して見ようかなって、いくつかの知り合いのサークルに挨拶をした後で猿助さんのサークルのブースにも来た。


「おお! エスタ氏! よく来てくれましたでござる!」


 テンション高く迎え入れてくれた。


「先日はとてもお世話になり申した」

「あはは、いいよ、それでどう? 状況は」

「売り上げはボチボチでござるよ、ただ……」

「ただ? 小銭が足りないとかあれば俺が」


「小銭は足りるでござる、ただ実は膀胱の状況的にトイレに行きたいと」

「わあ! 大変じゃないか! 俺がスペース座ってて臨時の売り子やるから漏らす前に行くといい」

「かたじけない! お釣りはそこの箱でござるゆえ!」


 猿助さんはお釣りの場所を示してトイレに向かって行った。


「さっさと一時的に店を閉めてトイレに行けばよかったのに……」


 大きなイベントのトイレは行列だから間に合うのか心配だ。

 彼の尊厳は無事守られるだろうか?


 でもともかく今は売り子だ。

 しかし、なかなか客は来ないから少し暇だな。

 俺は自分の魔法のカバンからスケブを取り出して絵を描くことにした。


 せっかくだし、獣耳っ子の水着イラスト集かポストカードでも出そうかな。


 別に俺はエロ以外の絵が描けない訳では無い。

 ただエロの方が効率がいいし、おっぱいや尻を描くのは普通に楽しいからな。


 そんなわけで売り子しつつ自分用スケブを描いていたら隣のサークルの売り子の女の人が、


「わあ、絵がお上手ですね!」


 などと言ってくれた。

 隣だから普通に俺の手元が見えるんだな。


「あ、ありがとうございます」


 照れる。


「スケブお願いしてもいいでしょうか?」

「え、俺は臨時の店番、売り子でこのサークルの主じゃないですけど」

「ええ、話は聞こえていたんで、でもすごく好みの絵を描かれるので」


 絵描きはかなりちょろいので、好みの絵といわれるとつい、引き受けてあげたくなる。

 通常海外は有料でスケブを受ける。

 日本は本などの売り物を買ってくれた人にサービスで書くことが多い。


「どれでもここの本を一冊お買い上げになられたらお引き受けできますよ」


 と、言ってみたら、


「買います! そのおかっぱちゃんの本を一冊」


 即答だった。


 俺の絵につられて売れたとなれば猿助さん的にはやや複雑かもしれんが、彼も印刷費の回収くらいはしたいはずだ。

 多分。


「お買い上げありがとうございます。では、お引き受けします」


 猿助さんの本を売って隣のサークルのスケブを引き受けた。


 俺は魔法のカバンの中に水彩色鉛筆と水筆もあるし、コピッ◯も入れている。


 でもコピッ◯のほうがすぐ乾くから、そっちで色をつけよう。

 下のページの色移り防止にチラシを挟んで描けばオーケー。


 一枚描きあげた。

 トイレが混んでるのか、猿助さんはまだ戻って来れてない。


「わあ! すっごくかわいい! 色までつけていただいてありがとうございます!」


「ははは、たまたま持っていたので」

「すみません、俺もスケブお願いしていいですか?」

「コチラの本をお買い上げくださった方へのサービスとなっておりまして」

「買います! 並んでる本、全種一冊ずつ!」


 おっと、四冊も買ってくれる!


「わかりました、俺の分かるキャラなら」

「そこの、女体化の織田信長なんですが」


 猿助さんの本の中に二冊、信長女体化の本があるんだが、男性はそれを指差して言った。

 

「ああ、はい、知ってますので描けます」

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


「おお! 神絵師が絵を描いているでござる!」

「あ、猿助さん、お帰り! 本を買ってくれた人にサービスでスケブ描いていたんだよ」

「おお、普通に金が取れる絵なのに本の売り上げに貢献してくれるとはかたじけない」


「ここのサークル主じゃなくても絵を描いてたら人が寄ってくるんだよな」

「それはそうでござろう、エスタ氏は神絵師でごさるゆえ」

「いや、大げさだよ、神ではない」

「自覚がない! それか謙遜でござるな」


 もしや、俺のバク売れの娼婦の実写を元にしたエロ本を読んで言ってるなら、神絵師と思っても仕方ないがな。


「あはは」


 自分の手で描いてもそれなりのクオリティーには確かになるけどな。

 とりあえず笑ってごまかす。


 俺は席を立ってこれとこの本がいくつ売れたと説明をしてからそこを立ち去ろうとしたのだが、


「エスタ氏! 良ければアフターをご一緒しませぬか!?」


 猿助さんはいい人だけどキャラが濃すぎて友達が少ないのだった。

 だからコラボカフェなどの時はジブン、友達少ないからつきあって欲しいとか助けてくだされって言われてる。


「ああ、飯か、俺はいいよ。連れのカナタがいいって言うなら、今連絡取ってみるよ」

「ありがとうでござる!」


 俺はスマホでカナタに連絡をとった。


「あちらもコスプレの人達にアフター誘われてるから合流しようか? ってさ」

「せ、拙者がコスプレ界隈の人達に混ざって大丈夫でござるか?」


「万が一無礼な態度取られたら俺も一緒に離席して帰るよ、気楽に行こう」

「うう、エスタ氏が優しすぎるでござる。拙者が超美少女のギャルならときめいて惚れてるとこでござる」


「なんでギャルなん」


 俺は思わず笑った。


「オタクに優しいギャルは夢でごさるゆえ」

「まあ、それは確かに」



 俺達は笑いあって、それから本もそこそこ売れたし、腹が減ったからお昼で撤収そしてアフターへって流れになった。

















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