第141話 冬の祭典

 俺とカナタは朝市のために早起きし、簡単に朝食として冷凍クロワッサンを食べた。


 冷凍クロワッサンはオーブンに入れて温めてやると出来立ての香ばしさを味あわせてくれるすぐれもの。


 風味豊かなバター感とサクッとした食感があるクロワッサンは最高だった。

 カフェオレとともにいただいた。


 外に出ると冬の寒さが肌を刺すようだった。


 食後にまだ借りたままのレンタカーに乗り、朝市に向かって出発した。


 早朝にもかかわらず、正月前の準備期間だけあって朝市は賑わっていた。



「はい、らっしゃい!」

「新鮮だよー!」


 魚屋さんの掛け声も小気味いい。



「あ、カニ!」


 カナタがカニを見つけて思わず声をあげた。


「カニも買っとくか」

「エビの方がジェラルドさんが喜ぶんじゃないかな?」


 カニだし、金額を気にしているのか。



「せっかく年末だし、正月に食うんだし、景気良く両方行っとこう」

「わかった、これくださーい」


 実はやはりカニが欲しかったのか、カナタは店主に声をかけた。



「はい、毎度!」



 パックに封入されたカニとエビをいくつか購入。



「魚で思い出したけど、のどぐろの出汁入り塩がお茶漬けとか作る時に美味しくていいらしいから、通販でポチッた」

「へえ、美味しそう」


「あ、天ぷら屋さんだ! それください!」


 揚げたての魚のすり身の天ぷら屋を発見!

 これは絶対美味いから俺はすぐさま売り場に駆け寄った。


「早っ」

「買ってきた! ほら、カナタも温かいうちに」

「ありがとう」


 高速道路のインターでも揚げたてを売っていて、だいたい誘惑に負けるんだよな。


「ほら、あったかくて美味しいだろ」

「うん! すごく美味しい!」


 残りを魔法のカバンに入れた。

 あいつらにお土産だ。


 それからブリ丸ごとと、鯛にサバ、アジなども購入した。


 発泡スチロールに入ったままのブリを抱え、車に詰め込んでからしれっとそれらを魔法の風呂敷に突っ込む。

 そして帰り道でカナタに訊いた。


「せっかくもどって来てるし冬の祭典も行ってみるか?」


 つまり同人誌やグッズを売り買いする祭り会場だ。

 沢山の人が年末に例のあの会場に集まってくる、地方の人も遠征までして。



「え? 翔太は今回の申し込みしてないよね」

「今回は買う側だから」

「あ、一般参加だね、別にいいよ」



 そうして朝市での買い物を終え、帰りがけにコンビニで少し買い物をして、一旦家に帰った。


 エアコンつけっぱなしで来たので、部屋の中は暖かった。


 タブレットで冬コミ前のSNSのタイムラインの賑ぎわいを観察。


 もう基本的に脱稿してる人が多いが、限界までコピー本などを作ってる人もいる。



 俺はお気に入りサークルのお品書きなどをチェックしつつ、欲しい本のメモをとる。



 そして自分の仕事の作業や通販の到着を待ちながら、日々を過ごし、冬の祭典当日。


 前日に別荘地を出て都会に戻り、カナタの為に用意していた家に泊まった。



 そして冬の祭典に行く朝、カナタは男の服装をしてた。

 ウイッグもつけてない。


「カナタ、せっかくイベントなのに今日はゴスロリでなくていいのか?」


「人が多いとこではスカートが広がってて装飾多いやつは邪魔になるし、押されたりして破れたりするともったいないし、トイレ問題もあるから」

「あ、そういうものなのか」



 あまり並びたくなくて遅めにゆったりスタート、開場時間の10時頃に着けばいいだろう的な感じで電車に乗り込んだ。


 人気のサークルの本はもう売り切れてる可能性はあるが、祭りの楽しげな雰囲気は味わえるだろう。


 夜は少し雨が降っていたが、天気は何とか持ち直してくれた。




「着いたー、流石にめちゃくちゃ人が多いね!」

「そうだな」


 そして全体的に黒い服の人が多い。


 有明には9時50分に着き、開場してから東館に向かいつつ、トートバッグから俺は軍資金を取り出した。


「さあ、カナタ、お小遣いだ」

「財布じゃなくてビニールにお金が!」


 ビニールには千円札と五千円札と五百円玉と百円玉が多めに入ってる。


「チャックつきだし、透明で見やすい! ちなみに五万円分入ってる」

「な、なるほどー、え、こんなに多くなくていいよ僕は。特に買いたいものもチェックしてないし」


「えー、それでいいのか?」

「後でコスプレゾーンに知り合いがいたら挨拶するくらいの気分で来てる」

「そ。そうか」



 カナタはあまり物欲がないのか?

 ここにいる多くの人はいわゆる宝の地図と言われるサークル情報の紙を手に移動したり、並んだりしてるんだかな。



「うわー、あそこの待機列、すごいね」

「おおホントだ。あ、モバイルの電波カーが駐車場に来てる」


 カナタと雑談をかましつつウロウロし、そのへんの様子を見ていく。


「ああ。やっぱ体力的に夏より冬の方がいいな」

「最近の日本の夏は暑すぎだからね」

「異世界はまだ涼しいからな、日陰とか」

「あ、そうだ、くっついて回ろうかと思ってたけど、翔太がサークルを何箇所か行くなら僕も手分けして代理で買って来ようか?」

「そうか、ありがとう! じゃあこの二件だけお願いしようかな、このサークルとこのサークルの新刊を全部」


 俺はカナタに買い物メモを渡した。


「オッケー」


 そんなわけで本を購入する前に俺達は一旦解散した。















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