第135話 何かしてあげたいおじさん
俺達が浄化を終え、神殿に戻るとこの地の、他領の領主から感謝の言葉と報酬を貰った。
宝物庫にお宝も残っていたから、けっこう儲けたかもしれない。
そしてそこからは転移スクロールで地元の伯爵領の神殿まで転移し、家に戻って来た。
「そういやユミコさんは何かしたいことや欲しい物はあるかな?」
俺は移動疲れの体をソファで休ませつつ、訊いてみた。
特に何もいいこともなさげな人生だった彼女に、俺は何かしてあげたかったのだ。
「え?」
「生前叶えられなかった夢とか」
お嫁さんになりたいから旦那さんと結婚して子共も! とか言われたら詰むけど、他のもので叶えられるものなら、叶えてやりたい。
「お人形……欲しかった」
「え!? お人形になってしまったけど!?」
「とうもろこしとボロ布で作ったような物を見たことがあって、こんな綺麗なお人形じゃなかったけど、浄化で外に出た時に、村の子が持ってて遊んでいたの」
ユミコさんは自分が今着てるお人形のドレスの裾を掴み、俯いて恥じらいつつ、そう言った。
「俺がもっといいお人形をあげよう」
「わあ!」
俺は⅙サイズ、りさちゃんサイズのお人形を魔法の風呂敷から取り出した。
「かわいい……ありがとう……」
「こっちはミラのだ、お人形遊びは二人くらいいたほうが楽しいだろう」
「はい」
以前撮影したくてミラに一旦渡した人形と着せ替えの出来る服をしまっておいたんだが、それを風呂敷から取り出した。
「そんで僕のスマホ貸してあげるから、お人形の撮影とかしていいよ。そして、ミシンにも興味があるみたいだし、今度、お洋服を作ってみようか?」
カナタは自分のスマホを貸していた。
「お二人ともありがとうございます! 嬉しいです」
「ねー、ショータ、私にはー?」
暖炉の火を起こしながらミレナが振り返った。
「え? ミレナもお人形さんが欲しいのか?
あ、ひと休みしたら明日はギルドに行って鑑定頼んでお宝の山分けといくか! 宝箱の金銀財宝!」
「金銀財宝もいいけど疲れたからひとまず甘いもの!」
「あ、そっちか、じゃあ、寒いし冬だし、ホットチョコでも作ってやるか」
ミレナが急に目をキラキラさせた。
「なるべく早くね〜」
「はいはい」
俺はキッチンに移動し、必要な材料と道具を出した。
「まずチョコレートを細かく刻んで⅓程度を飾り用に取り分け、残りはボウルに入れる」
俺は自分のスマホに保存していたレシピを読み上げた。
すると、
「俺が手伝おう」
ジェラルドが腕まくりしてアシスタントを申し出てくれた。
「ありがとう、ジェラルド、じゃあ鍋に牛乳を入れて沸騰直前まで温めて、少量をさっきのボウルに加えてよく混ぜ合わせ、チョコが完全に溶けたら鍋に戻し入れて温める」
「ふむ……」
ジェラルドが俺の言う手順どおりにやってくれてる。
ミレナは見てるだけだったが、まあいいお疲れなんだし、偶然とはいえ、雪猿をキルした功労者だ。
ちなみにカナタは暖炉の近くでお人形遊びをしてるユミコさんにカメラ撮影の仕方を伝授していた。
「それからカップに鍋の中のそれを注いだら、飾り用のチョコをのせて完成!」
「よし、こんなもんか」
「うまそうだ。皆、甘いものだぞー」
「わーい」
ミレナはササッとテーブルそばのソファに腰を下ろし、尻尾を振っている。
「ほら、マグが重いからミラとユミコさんはスプーンな」
「「ありがとうございます」」
ドールの二人はスプーンで美味しそうに飲んでる。
かわいい。
「ふー、甘くてホッとする味ね!」
「うん、美味い」
「ほとんどジェラルドが作ってくれたよ、ありがとう、とても美味しいよ」
「ごめん、僕何もしてない」
カナタが申し訳ないって顔をした。
「いや、カナタはユミコさんにカメラの使い方を教えてただろ」
「あはは、あちらにらもどったら今度は何とかバニアとかも買ってあげようかな」
照れ隠しのように笑った。
ミレナは奉仕されて当然のようで、普通にホットチョコを楽しんでいた。
尻尾を振りながら。
……ペットだとは思えば別にいいな。
「あ、ラッキーにはジャーキーをあげよう」
「ワフ!」
まずは甘いもの。そして弁当屋て買っておいたそぼろ弁当を魔法の風呂敷から取り出し、美味しく食べた。
「美味しいけど、これは箸よりスプーンの方が食べやすいわ」
「それはそうかもな」
俺はミレナが箸からスプーンに持ち変えるのを見ながら合意したが、 洗い物が増えるから俺は箸のままいく。
「付け合せのほうれん草のおひたし美味しい」
カナタはほうれん草のおひたしが好きらしい。
俺も好きだが。
「細かい肉にもいい味がついてるな」
「ああ、美味しいよな、黄色い卵の彩りもかわいいし」
そぼろ飯ってたまに食いたくなるんだよな。
そして、食べ終えて皆と、
「ごちそうさまでした!」
と言って弁当箱をゴミ箱にポイ。
洗い物は最小限で楽!
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