第136話 深夜テンション

 しんしんと雪が降りしきる冬の日、

 そして雪が降り止み、満月の夜。


 仕入れの日だ。

 カナタと大樹のゲートに向かった。


「次に戻った時、新年のお祝いだって」

「日本は正月かー」


 そんな事を喋って、息を止めて大樹に飛び込んだ。


 実際、息を止める必要はないのだが、なんとなく毎回水中に飛び込むような緊張感があるからだ。



「まずは売上げチェックだ」


 パソコンを立ち上げた。

 同人誌通販サイトを確認したらまだちゃんと過去の遺産とも言える作品が売れ続いてくれてる。



「浄化の仕事のせいで漫画描く暇がなかったんじゃない?」

「ああ、代わりに古城で肝試し動画でも上げるか」


「カナタ、俺が動画を上げるからティッシュとかゴムとか下着とか薬、必要なものをポチっといていくれるか?」

「いいよー」


「スーパーに行ったらおせちに詰めるものやお酒も買うか」

「いいね」

「あ、あの二人にジルバニアの家とか買ってあげよう」

「いいね、僕は赤い屋根のやつを買ってあげたい」

「俺はツリーハウスのやつが好きだな」


「じゃあ僕のポケットマネーで赤い屋根の家を買うから」

「じゃあ俺のポケットマネーでツリーハウスを買うか」


 ポケットマネー呼ばわりでちょっと笑う。

 そしてネットで色々通販してから外に出る。



「さて、風呂屋に行くか」

「お風呂、家にあるのに」

「掃除が面倒なのと、コンビニの新作も見たいじゃん」

「わかったー」


 俺達は鍵を閉めてチャリンコでまずは近くの風呂屋へ。


 風呂屋でしっかりと温まり、中にあるお食事もいただく。

 そんで食事中にカナタとミーティングのような事をする。


「でもさー、やっぱ毎回ティッシュ仕入れるより、あちらで製紙工場とかを作った方が良くない?」


「それは俺も思ったけど、森を買うまではいいとして、森林伐採かーとか、住む生態系が破壊されるかもって思ってしまうんだよな」


「でもそれはコチラの世界のどこかで同じことをやってるよね」

「そうなんだよな、伯爵様に相談してみようかな、貴族は皆ティッシュ欲しがるし」

「貴族じゃなくてもティッシュは欲しいよ! 一応動画サイトの紙の作り方、工場のやつを保存しておくね」

「ああ」


 注文した食事が、来るまで二人でスマホをポチポチしていたら、ややして注文したメニューが届いた。


「石焼きガーリックライスとハンバーグセットです、おまたせしました」

「ありがとうございます」

「わ〜、美味しそう」


「このガーリックとブラックペッパーの味がパンチが効いてていいんだよなぁ」


 そんで飲み物はジンジャーエールを頼んだ。


「僕のハンバーグも美味しそうだよ、こうやって割ると肉汁が溢れ出てくる」


 カナタは箸でハンバーグを真ん中で割って見せた。そして手にはスマホがある。


「いや、美味しそうだが肉汁が皿に流れるのもったいない、早く食べた方がいいぞ」


「つい、撮影しちゃった」

「あはは、職業病のカメラマンかよ」



 そして食事を終えてスーパー銭湯から出て来てチャリに乗ったら、やたら寒かったので、思わず叫んだ。


「失敗した! 冬にチャリ寒い! やはり俺は車を買うべき!」

「大丈夫!? 家を買ったばかりだよ!?」

「旅系動画作れば経費にならんか!? もしくは継ぐ人がいないくらい寂れた古い神社買って宗教法人になるとか!」


「いくらなんでも寺だか神社だかって高くない!?」

「三千万とかもあったぞ! エリクサーで絶対信者増やせる! 難病に苦しむ人を救える!」

「一気に怪しい教祖感が!」


「エリクサーは本物ですけど!? 限界集落で俺と握手!」

「えー!? それ本気!?」

「節税するなら宗教法人じゃねーの!?」

「怪しい宗教だと言われて地元民が怖がらない!?」


「俺は無理矢理変な壺を買わせたりしないから! 病気を治した人から寄付を貰うだけだから!」

「うーん、確かに助かる人はいそうだけど、困ってる人の足元見てる感はあるなー」


「エリクサーは使うと減るんだよ! 相応の対価じゃないかな!? スーパードクターに頼んでも高額な治療費が必要じゃないか!?」


「それは、そうかもだけどー、翔太が遠い人になりそうだよ!」

「何でだよ! よくわからんが法人格買い上げたら特に資格いらんて書いてあったし! 変な企みのある怪しい外国人に買われるくらいなら俺が買ったほうが安全では!?」


「えー、でもなんか怖いな〜」


 カナタは心配してくれてるようだ。

 確かに法の抜け穴、隙間をついたような感じがするからな。



「じゃあ宗教法人は置いといて車! 車ってカジノで当たることもあるらしい!」

「か、カジノォ!?」

「スロットで車が当たる人いる! 多分ラスベガス!」

「ベガス!? そんなとこで負けて破産したらどうするの!?」


「何故最初から負けると思うんだ!?」

「先にそのへんのパチンコ屋でスロットの実力でも見せてよ! いきなりベガスは怖いから!」


「まあ、それはそうだな、しかし年末だなぁ、街の飾りや雰囲気が」


「急に会話変わるじゃん! とりあえず明日はドラッグストア巡りとコインランドリーとユミコさんとミラちゃんにおもちゃ買おう。それでついでにスロット。あ。でもやっぱギャンブルより普通に車買うほうが良くない? 中古でもいいから」


「カナタは堅実派だな」

「翔太はなんで急にギャンブル思考になってんの!? まさかジンジャーエールで酔った!?」

「あはは、課金は家賃までなら大丈夫だって!」

「ちょっと落ち着いて欲しい、年末ってハイになるもの!?」

「むしろ深夜テンション!」


 いつのまにか深夜二時なんだぜ。

 しかしカナタには母親みたいに心配されたし、自重するか。



「あ、翔太、そこコンビニだよ! 落ち着いて新作のアイスでも見よう。頭冷やして! 紙工場で森林伐採とか環境破壊がーとか言ってた人がどうなってんの!」

「あはは」


 確かに眼の前にコンビニがあって、カナタと俺はチャリを置いて店内に入ったけど、ラスベガス行きと神社購入は流石に心配かぁ。






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