第126話 あたたかい家に帰ろう

 もう、急ぐ理由は無くなった。

 山河を渡る鳥の群れが、俺たちの空を過ぎ去っていく。

 俺達は川を下って、春には花畑になるだろう土地に着いた。


 見晴らしのいい小高い丘に、彼女の遺体を葬った。


 真新しい土饅頭の上に、木で十字架を作って立てた。

 その十字架には造花のリースをかけた。

 これなら枯れないからな。


 そして墓を荒らされないように、あえて名前は刻まなかった。

 聖女が偽物だったと知らない人からしたら、遺体にも価値を見出す輩がいるかもしれない。



 俺は某お食事配達員の背負う四角いバックと似たものにフェリとミラを入れて背負い、またルルエに乗って走った、家に向かって。


 帰り道の途中に寄った大地の女神の神殿で、神様に祈った。


 お供えしたのはシャイ◯マスカットと甘い苺とサツマイモ。


 そしてお坊さんに御経をあげて貰う代わりに、動かないままのフェリの体をカバンから出して、巫女たちの歌うゴスペルを聞かせてやったりした。


 何日かルルエで走って、ようやく家に着いた。

 色々疲れた。



「皆、おかえり、連絡なかったけど大丈夫だった?」

「あ、連絡忘れてごめん、聖女、ユミコさんを助けるの間に合わなくて……」


「そうだったんだ、こっちは衣装、ひとまず完成したよ」

「そうなんだ! 見せてくれ。あ、でもその前にフェリはいつものとこに座らせておこう」


 俺はカバンからフェリを出していつもの定位置に座らせた。


「? フェリちゃんどうかした?」


 普通のドールのように動かないフェリを見てカナタが怪訝な顔をして首をかしげた。


「その説明は私からするわ」



 ミレナが泣きそうな俺の代わりに説明してくれた。


「そ、そんな事が、でもだとすると、ここよりジェラルドさんの賢者の家の方がどちらかが目を覚ますのでは?」

「そうかもしれんな、俺がしばらくフェリとあちらの家に帰っておくよ」


「ありがとう、ジェラルド」


 俺はいくつかの弁当やパンなどの食料も渡した。

 ジェラルドも魔法のカバンを持っているからそこに食べ物や飲み物は全部入れた。



「それとその大きなカバンを借りてもいいか?」

「うん」



 ジェラルドは魔法のカバンとフェリを大きな保冷バッグに入れて、それを担いで賢者の家に向かった。


 ここに俺達以外に他の日本人がいたら、デリバリーサービスをしてるエルフがいるのかと驚くことだろう。


 しかし、俺はせっかく帰宅したにもかかわらず、元気に雪山でソリに乗って……とかいった遊びをする気にもなれずにいた。

 ただカナタが見つけてくれた代理店の店舗候補を見に行ったりはした。


 そして代理店長のことで伯爵令嬢に信頼出来るいい人材はいないか聞くために手紙を送ることにして、呼出したぴーちゃんはもういつものぴーちゃんだった。


 何も憑依してない。多分。


 * *


「翔太、気分転換に映画でも見ようか、せっかくプロジェクターもあるし、それとも推しのいる劇場に行く?」


「あ、そうだな、推しに元気を貰おう、ミレナとカナタも一緒に劇場に行くか?」

「うん、僕は一緒に行くよ」


「私はちょっと神楽舞の練習をしてから寝るわ」

「そうか、分かった、焼き肉弁当とそぼろ弁当とお茶を置いていくから、腹が減ったら食べるといい」

「ええ、ありがとう」



 あまり落ち込んでばかりいると周りも心配するから、俺はカナタと観劇に向かい、推しに元気をもらった。


 推しは落ち込んだ心に効く!!

 少し気分が上を向いた。

 そして伯爵令嬢から連絡が来て、伯爵家に行ってみたらその場でもう代理店長を紹介して貰った。

 仕事が早すぎる。


 新店舗の準備が完了したらまた会いましょうと、帰宅したらカナタがフェリに新しい服を作ってくれてた。

 リボンのレースアップつき花柄のワンピース!!

 


「普通のワンピースだけど」

「とてもかわいいよ! 明日は早速森に届けに行こう」

「あ、ミラちゃんにも良ければ今度作るからね」

「ありがとうございます」


 * *


 カナタと俺とミラで森の賢者の家に行った。

 ミレナはジェラルドが苦手なので留守番するらしい。



「来たな、じき雪が降るぞ」

「おっと、間一髪だったか」


 家の中に入れて貰って窓の外を見たカナタが、



「本当だ、雪チラついてきた」

「ふー、寒かったわけだな」


 俺は思わず冷たい手を擦り合わせた。


「マスター、私がフェリの着せ替えをしてもいいですか?」

「ああ、いいよ」



 俺はカナタが作ったワンピースをミラに渡した。

 早速着替えをさせている。


「お前達は暖炉の側に座るといい」

「ありがとう、ジェラルド。串焼きやチーズを炙ってもいい?」

「好きにしていいぞ」


 俺は串焼きの肉とチーズを魔法の風呂敷から取り出して、炙って食べる事にした。


「ミラちゃん、フェリちゃんはどう?」

「まだ目を開けませんが、新しいお洋服、きっと喜んでいるはずです」

「うん、フェリちゃん似合ってる、かわいいよ」

「ああ、似合ってる」


 もしやどちらかが目を覚ますのに、一年かそれ以上くらいかかるのか?


「あ、いい匂い、翔太、もうお肉焼けてる」

「先に肉を食べよう、これはなんと牛串だぞう。あ、万能スパイスはここな」


 俺は万能調味料を魔法の風呂敷から出した。


「美味しい〜。暖炉の前って幸せ空間だねえ」


 美しいオレンジ色の暖炉の炎を眺めてパチパチと小さく薪が爆ぜる音を聞きながら、火を囲む仲間達と美味しいものを食べている。


「ああ、次はチーズ行こうか、バゲットもあるし。スイスの山小屋風」


 あ、デジャヴを感じる。

 以前もどこかでこんな事をしたよな。


「そうさのう」

「カナタ、それは違う作品の農夫!」


 たあいもないネタに思わず笑った。


「あはは、知ってるけどね、つい言いたくなった」


「二人とも、ここは森の家だぞ」

「あはは、そうだよね」

「たしかに森の家だ」


 ジェラルドのマジレスに二人で微笑ましく思いつつ、笑った。


「翔太、プロジェクターであのスイスの少女のアニメ見れる?」

「見れない事はないがクソ長いぞ」

「そうだった、あれは長いよね」

「あ、あの監督の作品の食事のシーンだけ集めてる飯テロ動画はあるぞ」

「何それ見たい」



 その日の夜は森の家で穏やかに過ごした。




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る