第124話 彼女を探して……

 俺は朝食の後に偽の聖女と呼ばれていた見知らぬ少女の夢を見て、心配だから探しに行くと皆に知らせた。


 朝食の最中でなく、後に言ったのは、楽しい話ではないからだ。



「もう間に合わないかもしれなくてもショータは行くの?」

「ああ」

「仕方ないわね、泣くはめになっても知らないわよ」

「ミレナは神楽舞の練習、カナタは留守番しつつミシンで衣装の方、頼むよ」

「はあ!?」



 ミレナが何故か怒ってる?



「僕は戦力にならないから留守番は妥当だけど、じゃあショータはジェラルドさんとだけ行くの?」


 カナタはそう言ってちらりとミレナの方を見た。


「ミラとラッキーとぴーちゃんとで行くよ、ジェラルドは他に仕事があるかもだし」

「……」


 ジェラルドは何かを考えてるのか、沈黙している。



「なんで私も留守番組なのよ、護衛なら私も出来るのに」

「徒労かもしれないし」

「徒労かもしれないのにショータは行くんでしょ?」

「それはまあ、そうなんだけど」


「俺はこれからギルドの仕事を探すとこだったから丁度いい、聖者の旅の護衛をするさ」


 おっと、ジェラルドが護衛をしてくれるらしい。


「え、じゃあ依頼料を払わないと。えーといくらかな?」


「銀貨三枚の報酬でギルドには、お前の名前で出しておく」

「え? 安すぎない?」


「つまり人捜しだろう? 実際は三食の食事だけでいい、銀貨三枚は俺が自分で出して払う、お前の名前で」


「なんでそんなややこしいことを」

「なんかしら依頼を受けてたら冒険者ノルマは達成なんだからいいんだよ、額なんて」


「じゃあ私も銀貨三枚払って同行するわ! 私も食事だけ出してくれたらいいから」


 ジェラルドはもう自分の鳩を呼んで手紙を書き始めた。


「でも舞の練習は?」

「もうだいたい覚えたわ」

「早! ほんとか!?」

「なんとなく音に合わせて踊ればいいって言ってたじゃないの」


「まあ、それはたしかに」

「じゃあカナタはフェリと留守番を」

「私も行く」

「うん? フェリは留守番が嫌か?」 


「嫌」


 ずいぶんはっきり言ったな。

 実はお出かけ好きだったのかな?


「そうか、それだとカナタは一人で留守番になってしまうが」

「僕なら大丈夫だよ! 留守番しつつ作業を進めておくから!」

 

 ジェラルドとミレナは二人して鳩の足に手紙をくくりつけ、ギルドに向かって飛ばした。


「カナタ、すまないな」

「大丈夫! こう見えて、僕は成人男性なんだよ、あはは」

「お、おう、ごめんな。帰ったら山で一緒にソリに乗ろうな」


「やめなよ! 死亡フラグみたいな約束するのは〜」


 カナタには死亡フラグのように聞こえてしまったらしい。

 確かに帰ったら一緒に何かをしよう系は、やばいかな?



「あはは、じゃあ留守番をよろしく」

「うん、皆、道中気をつけてね」

「ああ、戸締まりはしっかりとな」 


 ジェラルドがお父さんみたいなセリフを言ったので何か少し笑えた。


「カナタ、何かあったら通信ブレスレットで連絡してくれたらいいからね」

「分かったよ、ありがとうミレナさん」


 俺とジェラルドとミレナは準備をして外に出た。

 どんよりとした曇り空の朝だった。

 冬だしこんなもんかもしれないが、確かに急がないとあの子が凍死しかねない。


 俺がサングラスをかけて出かけようとしたら悪目立ちすると、ミレナに却下されてフードつきの外套を目深に被って出かけることにした。

 冬だし、暑苦しくもないからこれでいいか。


 外套の下には温かい羊毛のトップスと保温性の高い下着も身につけている。



「ところで自転車とルルエ、どっちで移動する?」

「目的地が森なら自転車で森は無理だろう」

「そっか、じゃあルルエで」


「いってらっしゃーい!」


 カナタに見送られ、俺達は手を振った。


 そして俺はナビを頼む予定のぴーちゃんに宛先を言おうとして、ふと気が付いた。


「あ、ごめんジェラルド、名前、聖女の名前は何だったかな?」


 俺は長身のエルフの方を見た。

 聖女の噂を聞いたとか言ってたし。


「えーと、確か……ユミコとか言ったかな」


 ものすごく日本人的な響きの名前じゃないか!

 優美子とか由美子の可能性がある!


 * * *


 〜カナタ視点〜


 翔太達が出かけてから、徒歩で近くの飲食店に行ってみた。

 ここは富裕層の街なので、それなりに期待できるかもしれないと僕は紅茶とスコーンを頼んだ。



「それでな、あのたまにしかやってない店のハンバーガーってのが悪魔的に美味いから家で料理人に肉を細かくして焼いてパンに挟むんだって言って作らせてみたけど、全然あの味にならないんだ」


 ハンバーガーと聞こえたし、どうやらうちの店の噂をしてる人がいる。

 会話してるのは近くの席の男性二人だ。


 しかし、悪魔的に美味い……そうだったのかーそこまでかー。

 褒められてちょっと嬉しい。

 調味料が違うんだろうね。


「じゃあやはり食いに行くしかないのか、行列に並んで」

「でもあの店はしばらく列に並んでたら整理券ってのをくれるからな、馬車の中や近くの店で時間を潰すことはできるのはいいと思ってる」

「近くの店も埋まるのでは?」

「ここもだけど敷地内なら外まで沢山椅子を出してくれるよ」


「冬は外だと寒くないか?」

「火の魔石をポケットに突っ込んで耐える」

「そうまでして!?」

「揚げたポテトもついてくるけど、あれがまた美味い」

「流石にそれは家で作れるだろ?」

「まあ確かにポテトはな、でもあのハンバーガーがないから」



 ご迷惑をおかけしてすみません。

 そのうち出張店舗を出すらしいので……あ、僕の方でも探しておこうかな。


 などと考えていたらスコーンと紅茶が届いた。


 紅茶はそれなりだけど、スコーンはパサパサしてる気がした。

 翔太と日本のホテルで食べたスコーンはしっとりして美味しかったんだけど……。

 スコーンって店によってだいぶん違うなあ。

 あのホテルのはアメリカ系? でここのは紅茶と合うようにイギリス系のスコーンなのかも。



 とりあえず不動産屋を探してみよう。僕は僕でできる事をしないとね。


 



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