第117話 惑わされるな

「これも……ある意味ナイトクルーズ?」


 俺は今、浄化任務の帰りで夜の船上にいたので、毛布に包まれながらも今更ながら気がついたのだ。


「確かに今、夜に船は乗ってるけど、あれは豪華な船と綺麗な夜景とのセットで成立するレジャースポットなんじゃないかな?」 


 カナタに極めて冷静なツッコミをいただいた。


 周囲は真っ暗な夜の海。

 BGMは波の音と乗客のイビキ……。



「花街なら夜も魔法の灯とか灯ってて綺麗なんだが」

「聖者が花街で、仮に池とかがあったとしてそこで舟遊びは前代未聞では……」

「別にネットがないこの世界では俺が聖者だなんて知るのは先日のパーティーにいた貴族と一部の聖職者だけなんだがなぁ。あ、念の為に変装すればいけるかも」


「そ、そうまでして……」


 カナタが俺の花街への執着に苦笑した。

 あそこは俺に絵での収入を与えてくれた場所だから、特別な思い入れがあるのだ。

 あと、夜に魔法の灯りが煌々とついてて、雰囲気が好きだ。



「俺はせっかく異世界にいるから異世界映えスポットに行きたいなぁと思ってる」

「でももう冬だよ、雪山とか行きたい?」


 今はカナタも寒そうに毛布に包まれながら丸くなっている。

 そしてミレナはここぞとばかりにラッキーを抱っこして暖をとっている。

 女性じゃなきゃずるいぞと言っていたとこだ。


 ちなみにミラとフェリは籠バッグの中で寝てるし、ジェラルドは船の護衛の冒険者達と交代で見張りをしてる。


「うーん、雪山登山は寒いしなぁ、でもスキーはなくてもソリ遊びとか雰囲気の良いロッジには興味はあるかも」

「ロッジとソリかぁ、悪くないね」


 とりあえずやはり次の満月では温かい洋服や毛布を日本で買い込んで孤児院やらに配布しようと思う。


 寒さに震える子が少しでも減るように。


 その後は見張りの交代時間が来て戻ってきたジェラルドと俺とカナタで毛布に包まり、三連のお団子のようにくっついて眠った。


 スヤァ……。



 船旅の終わりに顔が寒いねぇ、などと言ってルルエの背に乗り、皆で家に帰った。


 そして帰宅してから春くらいに祭りをやる予定だと領主の伯爵様と神殿に手紙を送った。


 冬の間にミレナが多少踊りを覚えてくれたらいい。

 衣装や会場の選びの用意もあるし。


 家でマッタリ一休みした後に、浄化の地の御土産のラム肉をひき肉にしてメンチカツにしようと、カナタと一緒にキッチンに立った。

 肉は日本から仕入れていたミンサーにかけた。


 ジェラルドは俺達がメンチカツを作る手順を興味深そうに見てた。

 本当に見るべきはいずれ嫁に行くだろうミレナの方ではなかろうか? とは思ったが、ミレナの方はミラやフェリの着せ替えをして遊んでる。


 しかしあれはあれで女の子らしい遊びではあるな。



 * *


「料理ができたぞ!」


 俺が声をかけたら皆がリビングのテーブルに集まった。


「なるほど、美味しい揚げ物だな」

「美味しいわね、ショータこれなんて料理?」

「メンチカツだ」

「皆、キャベツのおかわりもあるぞ!」

「おかわりをくれるならカツの方がいいわ」

「まあ、それはそうだよな」



 しばらくして伯爵様と神殿からは祭りをやるなら助力は惜しまないとの返事があったので、ひと安心。


 * *


 それから原稿や動画編集をしばらくやって、また満月の日が来て、俺はカナタと日本に向かった。


 大樹経由で出た先は既に別荘地の新居になっていた。

 あの古いアパートではなかった。

 少し寂しくはあったが、仕方ない。


 俺はパソコンの準備をして、動画再生数やらえちち同人の売上をチェックし、通販で買いたいものをポチポチした。

 コンドームとか女性用の下着とか、薬局で買えない抗生物質とかの薬の類は大事だから。


 テレビのニュース番組をつけて流し見をしているとインフルエンザが流行してるらしかった。

 カナタと二人で気をつけようと話をした。


 それと、電車に乗って移動したけど、もう街中はクリスマスムードだった。

 クリスマスより一週間は前だけど。


 店でフリースや毛布の防寒対策の物を購入した後に、クリスマスマーケットも既にやってる事に気がついた。


 ホットワインを買ってクリスマスマーケット会場を巡る。

 キャンドルホルダーやかわいい飾りを買った。

 そしてカリーヴルストも買って食べた。

 これはカットソーセージにカレー粉にケチャップを混ぜて使った料理だが、あったかくて美味しい。


 映える景色なので撮影もした。


 ミラやフェリにもかわいいドール服を買うことにした。


 ミレナの衣装用にも色々と店を回った。

 途中お腹が空いてデパート内でたまたまやっていた日光展で買い食いもした。



「見て、翔太、揚げ湯葉饅頭だって、美味しいのかな」

「買ってみればいい、俺が買ってくる」



 揚げた饅頭を買ってカナタに手渡した。



「ありがとう」

「おう」


「これ、表面に塩がついてて中にあんこ入ってる! そんでめちゃくちゃ美味しい!」

「マジで美味いな、もっと沢山買えば良かった」


「いくつ買ったの?」

「御土産込みで四つ」

「うーん、ギリギリだね」

「……残りも食っちまうか? 二人で」


「うーん、留守番してる二人に悪いし、他にも美味しいものは沢山あるからここは我慢しよ」



 カナタは本当に優しいやつだな。



「そうか、あ、またシャイ◯マスカッ◯買わないとな!」

「じゃあ果物売り場に行こう」

「あ、今ならナイトクルーズにも行けるのでは!?」


「やってるとは思うけど彼女もいないのに? あと、予約いるのでは? よく知らないけど」

「そうだった……彼女もいないのにナイトクルーズなどと……」


 俺は何を……パリピでもないのに……。

 正気に戻れ。

 LEDでキラキラのライトアップをされた街やクリスマスムードに惑わされるな。

 隣にいるのは女装してるだけの男なんだ。かわいいけど。



「ナイトクルーズの代わりにちょっといいホテルに泊まるとかさ」

「あー、せっかくだし、ホテルの美味い飯でも食うか」

「クリスマス当日ならめちゃ値上がりしてそうだね」

「あはは、それはそうだな」 


 二人で街ブラをしていたら、カナタがとある店の近くで足を止めた。


「あ、翔太、あそこでホットチョコレート買えるから行ってくる!」


 カナタが小走りでホットチョコレートを買って来てくれた。


「あったかくて美味いな」

「オシャレな上に美味しいし、満足度高いね」



 そして夜にはちょっといいホテルに泊まった。

 日本のホテルのベッドはすごくふかふかで気持ちいいなぁと、改めて感動したりした。


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る