第116話 祭り計画
「あー、疲れた、おじさんは移動だけで疲れるわ、マジで」
俺は領主が手配してくれた宿でだらりと休みつつ、暖炉のそばでポテトのお菓子、チーズ、ナッツ、ビール、あるいはコーラを手に各々楽しんでいた。
「ねえ、この暖炉の火で蕩けさせたチーズをポテトのおやつにくっつけたら美味しい!」
ミレナは串に刺したチーズを暖炉の火で炙っていたのだが、
「ミレナよ、自らピザポテ◯に辿りつくとは、やるな」
「そんな感じの商品は既に向こうにもあるよ、ミレナさん。とても美味しいけどカロリーの暴力だから太らないよう気をつけ……いや、なんでもないよ!」
「カナタ今、なんて!?」
「う、運動すれば大丈夫だよ!」
そして側には楽しい仲間達もいるし、ほろ酔いの俺は思いつきを口にした。
「なー、皆、俺、お祭りをやろうと思う」
「は? 急だな、冬にか? 春じゃなくて?」
「あ、クリスマスパーティーかな?」
「いや違う、季節は春でも冬でもいいけどさ、聖者として神様にお酒と美味しい物のお供えとか神楽舞を奉納してさ、神の加護が増せば浄化が必要な場所を減らせるんじゃないか?」
移動がマジで疲れるし。
「ショータ、もしかして移動が疲れるから祭りを開催したいって感じ?」
ミレナが床に敷かれた毛皮の上でへたばってる俺を見て、やや呆れ顔をしながら言った。
「ああ、それとこの世界の人の生活、安全の為でもあるぞ!」
「あはは! ところで舞ってそれ誰がやるの? ショータがぁ?」
ミレナは呑気に笑っている。
「こんなおじさんが舞ってどうすんだ、俺が神様なら綺麗な人に舞って欲しいから、君達、ミレナをセンターにして舞ってみないか?」
急に巻き込まれたエルフと男の娘は面食らった顔をした。
「僕は男なんだけど? それは巫女さんの仕事じゃない?」
「俺も男だ」
「男でも綺麗どころならいいのでは?」
「はあ? 肝心のショータはどうするの?」
ミレナが突っ込んでくる。
「俺はカメラマン」
「アホか、聖者がカメラマンしてどうする」
「マスター、カメラなら私がやります」
「わたしもカメラやってもいい」
ミラとフェリがカメラをやると言い張る。
「じゃあ、俺はお祈りを」
「ところで、なんで巫女でもない私が踊るのよ」
「だからミレナは綺麗だし」
「わ、私が綺麗なのは当然だし! そんな言葉で面倒な事をするわけないじゃないの! 踊りも知らないのに」
「俺の端末に光輝の舞って動画が入ってるからそれ見て覚えて、曲に合わせてなんとなく踊ればいい」
俺はタブレットを魔法の風呂敷から出して動画を表示させた。
「なんとなくってなによ〜」
「俺が神様なら完璧に間違えず踊るとかより、綺麗な人が綺麗な衣装着て舞ってればそれだけで嬉しいから大丈夫さ!」
「だからめんどくさいし、巫女に頼みなさいよ!」
「ソフトクリーム!」
「え!?」
ミレナがソフトクリー厶のワードに反応した!
耳と尻尾がぴん! と立ったから。
「よく考えたらあのソフトクリー厶の先っぽだけのより本物のソフトクリー厶のが柔らかく滑らかでもっと美味いんだよ。でも持ってくるのに難儀するかと思ってたけど、よく考えたら持ち帰り用のホルダー的なのがあったから、それごと魔法の風呂敷に入れてしまえばこちらに持ってこれるんだと先日気が付いた」
「もっと美味しいですって!?」
お? やはり心が揺れている!
撮れ高まであと一押し。
「ほんと〜に美味いんだけどな〜。
あの味を知らないまま生きて死んで後悔しないか?」
「くっ! やるわよ! やればいいんでしょ!」
「ショータ、聖者が食べ物で釣ったりしていいのか?」
「見たいものの為に手段は選ばない、俺は芸術家な気質もあるんだ」
「何が芸術家よ、えちち絵を描いてるくせに」
ミレナが暖炉から離れてベッドの上にあった枕を投げて来たが俺は顔にぶつかる前にキャッチした。
「芸術家も裸婦とか描くぞ! でも最近はあまりえちち絵は描けてないな、聖者になった今、売りに行くのはやばすぎるし、今は雑貨屋の売上があるから生きられるし」
「それは確かに聖者がおおっぴらにえちち絵を売るのはやばいな」
だろう?
「さあ、君達、端末の踊りをよく見るんだ、激しい踊りではないから大丈夫だろ」
「むー、この鈴のついた短剣みたいなのはどうするの? 私は鈴付きの短剣は持ってないわよ」
「剣じゃなくて扇子でいいよ」
「いい加減ねー」
「そもそもこちらの神様とあちらの神様は違うから、参考程度でいいはず。最初に神楽舞を考案した人もこんな感じでいいかな? 的なとこからスタートしたのではないかと思うし」
「この動画、女一人で踊ってるから俺達はいらないのではないか?」
「他の動画では複数で踊ってる神楽舞あるから」
ジェラルドが舞から逃れようとしている。
「とにかく、衣装も着物を日本で買ってくるならまた満月の後だよね」
「まあ、それはそうだな、ちなみに衣装はその動画のより華やかにしたいと思ってる。花冠かキンキラジャラジャラした装飾着けて」
「この男好き勝手言ってるわね〜」
「金も衣装も俺が用意するから許してくれ」
「やはり狐娘が一人で踊った方が間違えてもごまかしが効くと思うんだが」
「じゃあ一人ずつステージを分けて、ミレナかジェラルドにトリを飾ってもらう?」
「待って! 前座でも僕がソロで踊るとか無理だよ!」
「頑張れ! 特別ボーナスを払う!」
「えーーっ! 巫女さんを雇おうよ! 今こそ聖者の特権を行使しなよ!」
カナタにはボーナスの誘惑は効果ないのか?
「そうだな、聖者が声掛けすれば神殿側がはりきるだろ?」
「二人共、そんなに嫌か?」
「自分でやれと言われたらと考えてみろ、俺は踊り子じゃないぞ?」
「見栄え重視で選んだし、知らない人に頼むよりはなぁと思ったのにな」
「ここで人見知りしてる場合じゃないぞ」
検討に検討を重ね、結局ミレナがソフトクリー厶に釣られて一人で神楽舞を踊ることになった。
そして翌朝には領主の遣いが現れ、謝礼金と特産物を渡してくれた。
本当は領主の館に招待し歓待したかったらしいけど、俺がくつろげないと断ったせいで持って来てくれたのだ。
とりま船代は回収できて良かった。
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