第99話 夜のお楽しみ
夕食にカボチャとりんごのパイを宿の共有スペースで皆と食べた後に、男子部屋と女子部屋に分かれた。
ミレナがちと寂しそうだが、ここは仕方ない。
若い女子を入れるのは本人が嫌だと言うから。
俺達は魔法の光で幻想的にライトアップされた紅葉を見ながら宿の大きな風呂に入った。
綺麗だなぁ。そして……いい湯だなぁ。
ほかほかになった。
* *
夜はどんどんふけていく。
風呂上がりにビールと乾き物をテーブルの上に出す。
「題して夜の修学旅行」
宿の男子部屋でやおら切り出す俺。
「は?」
「ほら翔太、ジェラルドさんが困惑するから」
ああ、大丈夫だ、カナタ、今から説明するし。
「俺の世界では学生さんが同じ学び舎の仲間と団体旅行に行くわけよ、それが修学旅行って言うんだ。そんで夜に同室の仲間と楽しくやるんだ」
「それで何をどう楽しくやるんだ?」
ベットで横になりつつジェラルドが訊いた。
横になるだけで絵になる男である。
「枕投げは良識ある大人として宿の備品を粗末に扱うわけにはいかないし、トランプはルール覚えないとだし、恋バナは女子に任せるとして、一緒に映像を見ようかと」
「まさかエッチな!?」
あからさまに動揺するカナタ。
「カナタ、安心しろ、高貴なエルフにエロビ鑑賞会など似合うはずもない、普通に映画だ」
そう聞いて少しほっとした様子のカナタ。
「でも言語問題は?」
「もういっそ翻訳機能の道具を出そうかと、色々と後で役に立つかもだし」
「あのチートな帳面で?」
「そう」
俺は海神の帳面に描きだす。
モニターと接続用のデータ転送用コードを。
「勝手に言語変換してくれる大きめの便利なモ二ター!」
言って解体紙を破ると……出た!
こんなチートなものを趣味に使ってしまった!
最高に贅沢!!
でもいずれ商売にもつかえる可能性はあるよな?
「ジャンルはジェラルドに選んで貰おう」
「ジャンル?」
「ホラー、アクション、恋愛、ヒューマンドラマとか、見たい傾向の話はあるかな?」
ジェラルドは少し考えた。
そして……
「えーと……じゃあお前たちがやたら三つ編みに反応していたので、それが分かるものがあるか?」
「ああ! ある!」
あるけど! 保存してるから!
「アニメと実写とどちらにするんだい?」
「アニメだとくそ長くなって一晩じゃ無理だし、すると実写になるのでは?」
とは想うが、自分でも悩むな、この選択は。
「実写でそこまで感動した?」
「えーと……どうだったかな」
あれ、悪くはなかったけど、もとから作品を好きな人用って感じよな?
「日本のアニメーションの力を信じて三話くらいだけ見せてみる?」
「そ、そうだな、ジェラルドが気に入ればたまの休日に少しずつ見るのも悪くないよな?」
「うん、僕たちが住んでいた世界の事が少しでもわかるといいような気がするし、初見で創作ファンタジー世界のアニメとか見せるよりはいいと思う」
そんな訳で一晩では終わらないアニメ鑑賞会が始まった。
タブレット内の映画の動画を、モニターに映し出す。
オープニングの間にポップコーンやコーラを用意して配る。
約一時間半のアニメ鑑賞会。
「これを人間が手で描いているのか?」
「そうだよ」
「そうか、凄いな、絵が動いてて不思議だ」
「そうかもね」
カナタも穏やかに相槌をうっている。
アニメ初見ならまず絵が動く事に驚くかもな。
「赤土の地だな」
「そうだね」
映画館じゃないから、賑やかに実況しつつも悪くない。
「この主人公、感受性と想像力の豊かな子だな」
「そうなんだよ、孤児だし、辛いことを空想で耐えて来た娘なんで」
三話ほど見て、そろそろ眠らないとな! となり、続きはまた後日となった。
この作品へのジェラルドの反応は悪くなかった。
エルフといえど男性だし、アクション映画のが良かったかなぁとも思ったけど。
俺達は楽しい夜を過ごした。
エロビ鑑賞会より健全だったし。
* *
「マスター、昨日はお楽しみでしたか?」
朝になって宿の廊下でミラにそんな話をふられた。
「ああ、皆でアニメ動画を見たよ」
「そうですか、ご一緒できなくて残念です」
「そうか、ミラも一緒に見たかったか、今度休んでる時にでも見せてやるよ」
「フェリちゃんも昨夜はミレナさんが預かってくれてたし、今度一緒に見ると情操教育に役立つかも」
「教育? 子育てみたいだな」
カナタの言葉に俺は少し笑ったが、それでフェリの反応が出てきたら面白いのでやってみる価値はあるな。
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