第95話 大地の女神様に捧げ物

 目指すは大地の女神を祀る神殿。


 その神殿の側にはメープルの木が美しく紅葉しているという。


 国境を超え、ルルエに乗って休み休み道を行く。

 ちなみにラッキーはジェラルドの背中にくっついて、自分では走ってない。


 道中の宿屋の店先にあるメープルシロップを購入。

 パンケーキに塗ってゴキゲンな朝食にした。


 丘の上から、その森が見えている。

 森は黄金のドレスを纏ったような色をしている。

 所々赤や緑も差し色みたいに入っていたけど、それも込みで美しい。



 俺達はまるでカナダのメープルロードのような道を通った。

 赤や、緑、黄色、オレンジ、木々の色が楽しい。


 頭にはカメラ、耳にはイヤホンをつけて洋楽を流し、秋風を感じながらルルエで走った。

 気分爽快。


 ちょっとはたから見たらおかしな格好だけど、この美しい景色を、記録せねばと俺は思ったから。



「あの家、壁面が黄色と赤だ、町並みすらかわいいね」


 カナタも生き生きした表情で観光してる。

 レストランに入ってランチ休憩。


 俺達はサクサクのミートパイを注文した。

 なんとここはパイにもメープルシロップをかけるらしい。

 さすがメープルシロップが名産なだけはある。

 不思議な味わいだと思いつつ雑談。


「今夜の宿はどこにする?」

「カナダに似てる気がするし、あの緑の屋根の宿がいいな」

「お前が何を想像してるのかわかるぞ」


「あはは、分かっちゃった?」 


 俺達は顔を、見合わせ笑った。



「ミレナ、ちょっと後でその赤い髪を三つ編みにしてほしいんだが構わないか?」

「はあ? 別にいいけど」

「あ、ミラもどうだ? 三つ編み」

「はい、宿で揃えて来ます」


 俺達は緑の屋根の宿に部屋を取った。

 もちろん男女別々。


 宿で隣の部屋からミレナの声が聞こえた。

 悲鳴だ。



「きゃあ! ミラの頭があ!」

「ミレナさん、落ち着いてくだい。これはウイッグだから脱げるんです」

「ああ、髪の毛がずるんと抜けたかとびっくりしたわ!」

「大丈夫、ウイッグです」


「あら、赤茶色のウイッグがあったのね、しかも三つ編みの」

「マスターからお土産にいただきました。そしてさらにこのエプロンドレスを着るんです」

「どうして?」

「多分マスターの好みなんですよ、とある物語に出てきた少女のコスプレが」

「はあ?」


 意味の分かってないミレナと、意味が分かりすぎてるミラの会話が、薄い壁越しに聞こえてしまった。

 

 ミレナとミラが三つ編みのお下げ姿で出てきた。

 ミレナの服は移動のためにパンツルックだが、ミラはオレが渡したエプロンドレス姿だった。


「「かわいい!!」」

「お前達、一体どうしたんだ? 赤髪の三つ編みがそんなに好きか?」

「「うん」」 


 俺達の反応にミレナもまんざらではないといった感じだった。

 よくわかってないけど、ドヤ顔なのである。



 そんで当然ながらジェラルドも俺たちの盛上がりの理由がわからない。

 あちらのアニメをジェラルド達にも見せたいなあ。

 DVD等の円盤やプロジェクターがあってもあれは日本語だから、やはりアニメや映画を楽しんで貰うには翻訳器がいる。

 いずれ海神の帳面を使うかな?


 お店の行列待機時間に翻訳機能付きの映画を流せば、お客様も楽しく待ち時間を過ごせるのではなかろうか?

 などと考えたりもした。



 神殿のある森に入った。

 川のせせらぎを聞きながら、少し進んで行くと、紅葉に囲まれるように大地の女神の神殿があった。



 ルルエをその辺の木の枝にロープで繋いで、俺達は徒歩で神殿へ向かった。


 サクサクとした落ち葉を踏みながら進む。

 神殿に入ると巫女達の歌うゴスペルらしき歌声が聞こえた。


 おお、さっきまでミーハーな気分全開だったが、これは厳かな気持ちになるな。

 俺達は椅子に座って歌を終わりまで聞いた。


「お祈りを捧げに来られたのですか?」


 巫女さんに話しかけられた。

 お祈りついでに魔力の充電と観光に来ましたとは言いにくい。


「はい、お祈りと、そして女神様に捧げ物を。俺はお酒と新鮮な野菜とチーズを」


 ジェラルドが先んじて魔法のカバンからワインを出した。


「俺は酒と新鮮なフルーツとキャンドルを」


 俺も、ジェラルドにならって捧げ物をカバンから出した。

 花弁の入ったおしゃれで綺麗なキャンドルだ。


「まあ、なんて美しいキャンドルかしら」



 巫女さんも初めて見たようでびっくりしてる。



「僕も、ええと、綺麗なレースと花柄の布を女神様がお召しになれるといいなと」


 カナタの手持ちにはまだ売ってなかったとっておきの布とレースがあったようだ。

 早速先日魔導具屋で買った魔法のカバンに入れておいたらしい。


「まあ、美しい布ですこと! 女神様もきっとお喜びでしょう」


 巫女さんも美しい花柄の布にびっくりしてる。


「えーと、私はこの花束を女神様に捧げて、パンとチーズを寄付します」


 ミレナの出したパンとチーズは神殿の皆様が美味しくいただけるようにダイレクトに寄付するらしい。


「ありがとうございます、皆様に神のご加護がありますように」


 これには巫女さん達も満面の笑み。


 捧げ物をして、皆でお祈りをした。

 フェリはカナタのバッグの中にいる。

 ミラが俺のトートバッグの中にいるから持ってくれた。分担だ。


 神殿の周囲で落葉を掃き掃除してた巫女さんがいた。


「あのう、その落ち葉、貰っても良いですか?」


 俺の提案に巫女さんは首を傾げつつも、いいですよと言ってくれた。



 俺はビニール袋に落ち葉を入れた。


「ショータ、落ち葉なんて地元の森にもいくらでもあるぞ?」

 ジェラルドが不思議がっている。


「これは今度あちらに戻った時にサツマイモが出回ってたら焼きいもをする為だよ、ここの落ち葉で焼き芋をすれば女神様にもあの甘い美味しい味が届くかもしれないだろ」

「ああ、なるほど」


 カナタは理解したようだ。


「サツマイモ?」

「じぁあ今度のお土産に甘くて美味しいものがあるのね?」


 ジェラルドとミレナはまだあの味を知らないので、教えてあげたい。


「ああ、もちろん」







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