第96話 旅の記念に。

 俺達は夕食をとるために森の入口付近にあるレストランに向かった。

 そしてレストランで卵をたっぷり使ったオムレツを頼んだ。


 するとこれにもメープルシロップがかかっていた。


「翔太、このオムレツ、茶碗蒸しに似てる気がしない?」

「ああ、オムレツにメープルシロップをかけると茶碗蒸しっぽくなるんだな」

「不思議だけど美味しいね」

「ああ」



 そこで出されたワインも美味しかった。



 神殿のある土地の宿屋で一晩明けるとカナタが言った。



「女神様が僕の捧げた花柄の生地のドレスを着てて嬉しそうに笑ってた夢を見たよ」

「それはいい夢だな、女神様もお喜びだったんだろう」

「えへへ」



 ジェラルドにそう言われて、カナタはまるで夢心地のように陶然としつつも、とても嬉しそうだ。


 ちなみにこの旅でカナタはルルエにまたがる移動が多いので、スカートの女装は封印して男の姿のままでいる。



「さて、フェリの様子はどうかな?」

「……」


 トートバッグからそっと出してみても、未だ目を閉じて沈黙中。


「まだだめか」

「たぬき寝入りですよ、マスター。

 瞼を閉じるギミックなど無い筈が閉じてるあたり、もう神秘の力で変化起きてますし」 

「あ、そういやそうか」


 カッ!


 そのミラのセリフを聞いた途端にカッと目を開けたフェリだったが、


「……」


 やはり沈黙中である。──けどまあ、いいか。

 焦っても仕方ない。


 俺は宿の中の食事処で店員さんに訊いた。


「何かおすすめニューはありますか?」

「秋鮭のかまど焼きはいかがです? 脂が乗っていて美味しいですよ」


「秋鮭のかまど焼き! それは美味そう! それをください!」

「俺もそれでいい」

「僕も」

「私には肉料理を適当に」


「かしこまりました」



 ややして男性陣には玉ねぎ、しめじ、チーズ、カットされたじゃがいも、そして鮭をまとめて器に盛ってカマドで焼いたものがきた。


 早速食欲をそそる美味しそうな匂いがする!



「おお、美味そう!」


「これは確かに脂がのってて美味い鮭だ」


 まずジェラルドが食べてそう評価した。


「ホントだ、これ美味しいね」

「ああ、秋を感じる、美味い」  


 俺達も同意した。



「私のチキンの香草焼きも美味しいわよ」

「そうか、良かったな」


 ミレナはやはり肉が好きなんだな。



 レストランから出て、さて、次はどこに行こうかと、周囲を見渡すと、煙が見えた。



「あれ? ジェラルドあそこ、煙がでてるけど何かな?」

「ああ、焼き物を作ってる所だ」

「焼き物ってもしや陶芸?」

「そうだな、皿とか器を作っていたはずだ」


「そこ、行ってみたいけど、いいかな?」


 俺は皆の意見も訊いてみた。


「いいと思うぞ」

「僕は賛成」

「別にいいわよ」


 そんな訳で、窯元に来た。


「すみません、見学してもいいですか?」

「ああ、いいですよ」


 窯元の優しげなおじさんは気のいい返事をしてくれた。


 素焼きのマグカップ的なものやらカフェオレボウルみたいな器やお皿がある。


 まっさらの状態を見てるとウズウズしてきた。

 ダメ元で訊いてみるか。



「すみません、お品のお金は払うので旅の記念に絵付けなどをしても構いませんか?」

「ん、お兄さんが絵を描くのかい?」

「はい、これでも絵描きの端くれでして」

「いいですよ、そこのテーブルを使ってください。道具はお持ちですか?」


 おじさんはテーブルと椅子も勧めてくれた。



「はい、あります、ありがとうございます!」


 俺は魔法のカバンから筆と絵の具セットを出した。


「せっかくだし、皆も描いてみないか?」

「えー、私は絵とか自信ないけどぉ」

「そうだね、せっかくだし、僕も簡単な絵なら」

「悪くないな」


 そんな訳で突然の絵付け体験!

 旅の記念になると思う!


「何を描けばいいのよ」

「花でも猫でも狐でも蔦模様でもいいじゃないか」

「うーん……」


 ミレナは悩んでいるようだった。

 俺は皿に犬の絵を描いた。


「お、それはラッキーだな?」

「ワフ!」

「そう、ジェラルド正解! ラッキーの餌皿用に」

「良かったねぇ、ラッキー」


 カナタがラッキーの頭を優しくなでた。


「カナタのは……猫だな?」


 かわいいデフォルメの猫ちゃんの顔と肉球が描かれてる。


「そうだよ、翔太ほどには上手く描けないけど」

「なんの、可愛く描けてるぞ!」

「ジェラルドさんのは綺麗な蔦模様だね!」

「そうだ、失敗してもごまかしやすい絵柄だ」


「失敗してるの? そうは見えないけど」

「ふふ、どうかな?」


 ジェラルドは笑みを浮かべていて、ガチで失敗してても全くわからん出来映えのマグカップになっていた。


 さて、ミレナは?


「ラッキー、ちょっと手を貸しなさい」

「ワフ?」


 ミレナはラッキーの手、いや前脚をむんずと掴むと肉球に絵の具をつけて、お皿にペタリ、ペタリと押し付けた。


「よし! 完璧な肉球の柄が出来たわ!」

「なんだ、カナタの真似か」


 ジェラルドがミレナの作品をちらりと見て言った。



「私の方がリアルよ、本物だもの」

「うん、ミレナさんの作品、かわいいね!」


 カナタは優しいからフォローしてあげてる。


「まあ、確かにアイデアだな」


 俺もいいと思った。

 ちゃんとかわいい肉球柄ができてるし。



「そこの狐、汚したラッキーの脚は拭いてやれよ」

「分ってるわよ。エルフはいちいち五月蝿いわね!」



 ミレナはその後、ラッキーの足を必死で洗っていた。


 そして絵付けが完成したしたものを旅の記念に買い上げて持って帰ることにし、ガチで楽しかった!




















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