第94話 キノコの炊き込みご飯と鹿肉のロースト。
俺達はマツタケに似た香りのキノコと舞茸とシメジをゲットして帰ってきた。
ジェラルドは薬草屋に光る苔を納品に行き、家には先に帰っておいていいと言われたので、カナタと帰った。
鍵となる杖を借りてれば本人がいなくても賢者の家に入れるらしい。
俺は家の敷地前で魔法使いのように杖をかざした!
すると結界が解けて中に入れるようになった!
ファンタジック!
木の家の玄関扉をくぐった後で、
「あっ」
「どうしたカナタ?」
家の中に入った途端にカナタが声を上げた。
「何故か勝手に戻れる気でいたけど僕だけ片道で日本に戻れない可能性あったんだった!」
「あれ? そういえば! 満月の、来たばかりの時に指先だけでも大樹に入るか入れてみろって言えば良かったのに、俺……」
言うのを忘れてたな……。
日本の友達と異世界に来れて完全に舞い上がっていた。
「でも万が一だけど、それ先っぽだけ欠損することにはならない?」
「そ、それはないとは思うけどな……」
この世界の神様、だいぶ親切だし!
「それと、あの押し入れのあるアパート老朽化につき取り壊しとかになったら永遠に帰れなくなるかも?」
カナタの言うことはもっともだった。
うーん、すると、あれしかないか……
「あー、それはそうだな……かくなるうえは……」
「かくなるうえは?」
「なるべく広いけど安い別荘というか家を買い上げて、海神の帳面に新たな異世界への扉や門を描くしか……ページが無くなる前に」
「それはたいそうな願いだけど、叶うのかな?」
「でもそれしかない気がする。そうでなきゃあのアパートを土地ごと持ち主に交渉して買い上げる?」
「……それは面倒そうというか、大変そうだね。
とりあえず別荘は特殊な通り道みたいな場所を探した方がいいのかな?」
「でも心霊スポットみたいな土地を自分の金で買い上げるのは怖い」
「自分でいわく付き心霊アパートに住んでおいて?」
「一時的に借りるだけなら問題あれば引っ越しすればいいと思って……」
「いっそ占いで決めたいな、あちらにも占い師とかいるだろ」
「でも南の方角がいい、とか漠然とした言い方しかしてくれない可能性はあるのでは?」
「その時はその時……結局なるようにしかならない」
とりあえず食事の用意でもしよ。
「ひとまず思考を切り替えてキノコのタルティーヌと炊き込みご飯の仕込みに移ろう!」
「う、うん、そうだね」
キノコのタルティーヌは舞茸としめじとベーコンとチーズとバゲットの間違いない組み合わせで作った。
お昼をタルティーヌで済ませて、夕食はマツタケに似た香りの異世界キノコと舞茸の炊き込みご飯だ。
ジェラルドが夕食時に光る苔の売却から戻って来た。
テーブルに食事を並べる。
「ジェラルドお帰り! タルティーユと炊き込みご飯できてるよ」
「美味そうだ」
「今夜は秋の味覚祭りだ」
そして皆が席についてから実食。
「キノコから良い出汁が出てる、多分!」
自分で作ったが、満足な味だった。
「うん、美味しい。このキノコ、香りがマツタケで味が椎茸っぽいよ」
香りと味はカナタの言うとおりだった。
「舞茸もマツタケの香りの椎茸っぽいキノコも馴染みのある安心する味だ」
「キノコのタルティーヌも美味いな、ベーコンとチーズとの相性が抜群だ」
ジェラルドは昼に作ったタルティーヌも今、食べてる。
「ミレナさんもこれ、食べたかったのでは?」
「ミレナの分は弁当箱に詰めておくけど、あいつは肉の方が喜ぶよ」
「そっか」
「次は鹿肉料理をするから」
そんな訳でその夜も男三人でほっこりする炊き込みご飯を堪能した。
翌朝、昨日の残りを朝食にして、家に帰る事にした。
「さて、そろそろ帰らないとミレナが拗ねてしまいそうだ」
「そうだね、じゃあ帰ろうか」
「フェリはどうする? 俺の方は別に置いていても構わないが」
ジェラルドがありがたい提案をしてくれたけど、
「連れてくよ。他のパワースポットへ旅行に行こうかなって」
「他のパワースポットか」
「カナタは何か希望があるか?」
「え、僕は景色が綺麗ならそれで」
秋と言えば……芋と紅葉。
「今の季節なら、紅葉?」
「メープルの木の多い所か? あるぞ。大地の女神の神殿」
「いいね! そこにしよう」
* *
「ただいま」
昼過ぎに俺が家に入ってそう言っても返事はない。
家にはまだ誰もいなかった。
「あれ、ミレナさんはまだ帰ってないみたいだね」
「じゃあミレナのご機嫌取りに鹿肉でも料理しておこう、キノコ飯の弁当もあるけど」
「俺はちょっと外に出て来る、近所だから夕食時には戻る」
「はい、ジェラルド行ってらっしゃい」
ジェラルドは帰るなりもう出かけた。元気だな。
「とりあえず翔太、鹿肉はどんな料理にするの?」
「鹿肉にじっくりと火を通してロースト仕立てにする」
「へえ」
「鹿肉は脂身が少なくあっさりとしてるし、肉汁を生かしたバルサミコ酢と醤油で作ったソースが鹿肉に合うってレシピサイトにあったからそれを作ってみる」
「なるほど」
俺達は二人してしばらく料理に集中した。
「ただいま!」
ギルドの仕事をして来たらしいミレナが戻って来た。
「お帰りミレナ」
「お疲れ様、ミレナさん」
「弁当もあるけど、魔法のカバンに入れて好きなタイミングで食っていいぞ。夕食は別にあるから」
俺は炊き込みご飯弁当とキノコのタルティーヌを入れたタッパーをミレナに渡した。
「ありがとう」
ミレナはクンクンと箱の上から匂いを嗅いでいた。傷んではないぞ。
箱の外からキノコの香りが分かるのか?
ちょっと時間差で近所に出かけてたジェラルドも夕食時には戻って来た。
皆、揃ったので夕食として鹿肉のローストをいただく。
「うん、確かにこのソースはあっさりとした鹿肉に合うね」
「辛いのが好きなジェラルドはワサビもつけてみる?」
削りおろしたワサビをジェラルドに渡す。
「そうだな、いってみよう。……うん、美味い」
「俺もワサビいってみるか、お、パンチが効いてる!」
「僕はワサビ無しでいいや。このままで十分美味しい」
「私も辛いのはいいわ、このままで美味しい」
ミラはラッキーにご飯をあげて、フェリは定位置に寝かせ、いつもの団欒風景となった。
そして寝る時間には眠そうに目を擦るカナタを見て、本当にもう眠り草無しで眠れるようになってるようだなぁと、俺は安堵した。
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