第85話 カナタと異世界

 俺は注文していた弁当を引き取って、レンタカーを返却し、家に帰った。


 数日後に印刷物や通販した物も引き取るので、それまで仕入れ作業を二人で頑張ったり、たまに近場の温泉にも行って入った。


 品が揃ったところで、カナタには日本、地球最後の食事になりかねない夕食を食べる時が来た。


 やはりカナタは高級レストランは緊張するらしいので、夕食は俺の自宅でいい値段の和牛を買って、焼き肉プレートの上でステーキにして食べた。


「ジューシーだし、これはお高いお肉の味だね」

「結構なお値段だったから、肉にも脂にも旨味や甘みも感じられるし、素人が焼いても美味いだろ?」

「うん、綺麗にサシが入ってたし、柔らかくて肉の味もとても美味しい、ありがとう翔太」



 そしてワインを開けようとしたが、カナタが気を使い、洗い物を減らそうと言うのでカクテル缶チューハイを開けて一緒に飲んだ。

 味はよかったし、カナタも満足そうでほっとした。


 その後、俺達は風呂に入ってから、今度は二人で異世界へ行くことにした。

 俺は押し入れの襖を開け、カナタに最終確認。


「カナタ、覚悟はいいか?」

「うん」

「念の為、俺の体のどこかに触れて一緒に行くぞ」


 カナタは俺のシャツの端っこを掴んで、一緒に異世界へ向かい、大樹の根元に降り立った。

 成功だ!!

 俺達は思わず顔を見合わせた。

 そして、周囲に光が点在していることに気がついた。



「あれ? 蛍? それとも精霊かな?」



 俺は精霊祭の時の精霊を思い出し、そんな言葉をもらした。



「夏なら蛍がいてもおかしくないんじゃない?」

「夏と言っても初夏ではなくて、もうじき秋なんだが」


「そうなんだ。でも異世界だし、生態は多少違うかもだよ」

「それもそうだな。

とにかく、無事に異世界に来れたな、おめでとう」


「うん、ありがとう。なんかすごいな……」


 カナタはしばし呆然と蛍らしきものを眺めていた。



「よし、俺は今から仲間に連絡をとるよ。朝になったら荷馬車をヒッチハイクして移動しよう」

「に、荷馬車……」

「でかい街なら普通の馬車があるけど、ここは村なんだ。家に帰ったらルルエってダチョウに似た鳥の背中に乗っても移動が出来るぞ」

「鳥!」


 驚くカナタが新鮮で面白いが、俺はひとまずジェラルドとミレナに魔法のブレスレットで連絡をとった。

 魔法の道具を見る度にカナタは感心しっぱなしだ。

 更に今回はスピーカーモードで三人同時通話をする。



「今、こちらに戻ったんだけど、今回は友達も一緒だから、荷馬車を探して乗り継いで来るよ。景色を見ながら」

「はあ!? 友達も来れたの!?」

「お、すごいな、あちらからなら来れるんだな」


「ああ、じゃあジェラルドとミレナは家で待っててくれ」


 そう簡潔に言って俺は通信を切った。


「翔太、今のが狐の娘と男性エルフの声?」

「ああ、そうだろ」

「二人共いい声だねぇ」



 カナタはしみじみとそう言った。

 俺も同意した。


 今回はカナタも一緒なので、のんびり異世界の景色を楽しみながら荷馬車での移動だ。

 ちょっと揺れのせいで尻は痛くなるかもしれないけどな。


 ひとまず朝まで二人してテントの中で就寝した。


 * *


 朝になって軽くおにぎりを食べてから、俺達は道に出て荷馬車で移動するおじさんに声をかけた。


「すみません、村はずれまで乗せてくださいませんか?」

「あー、いいよ」


 カナタが驚いて俺の腕を掴んだ。


「翔太! 僕、そう言えばこちらの人の言葉が何故か分かる!」


 そう言えばミレナとジェラルドの声をスピーカーモードで聞いた時は美声にしか反応してなかったな。

 あの魔法の通信ブレスレットが自動翻訳機能つきだと思ってたのかな?



「それは良かった。無理だったら翻訳機をゲットしなきゃならなかった」  


 異世界転移特典がカナタにもついてて良かったぁ!

 神様、ありがとうございます!


 そして、荷馬車に乗りこんだカナタには、見るもの全てが新鮮に写っているようで、その顔は興奮で上気していた。

 すれ違う者達の様子も地球とは一部異なる。


「あ! エルフいた! わあ! あの娘はケモ耳ついてる!!……本当にここは異世界なんだ……」


 この反応は最もである。


 村を出て、そこそこ大きめの街に入ったところで一旦食堂にて食事をすることにした。

 異世界のお食事処に入ってみたいとカナタが言うので。



「パンが固くても泣くなよ」

「それはそれで新鮮でいいと思う」



 雰囲気も良くてそこそこ客も入っている店に二人で入った。


 そして適当なランチメニューを注文した。



「なるほど、このパン硬いね」

「だから言ったろ」

「でもこの豆のスープは素朴な味で美味しいよ。

あ、ところでこの肉って豚肉っぽいよね?」

「ああ、それは豚だと思うぞ」

「なるほど、知ってる動物もいて安心」



 素朴な庶民の味を堪能した後で、今度はタクシーの代わりに馬車に乗って富裕層の街に入った。



「うわ、街の匂いが変わったね! 町並みもセレブ感溢れてきた」

「そうだろう、俺の家は富裕層ゾーンにあるからな」

「すごいな……」

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