第69話 開店と魅惑の尻尾

 ──話は少し遡り、俺が戻って来て、昼にミートソースのパスタを美味しく食べて、明後日営業の文字を店の前の黒板に書いておき、そして夕食の時間になった時の事。



「俺は海鮮丼を食べるけど、君達はどうする? 焼き肉にするかい?」


「私はショータと同じものにするわ」

「俺もショータと同じでいい」

「俺も美味しければなんでもいいでーす」 

 

 ゴロゴロゴロゴロ。

 不意に空から音が。



「あ、雷だわ」

「雨が降るな、洗濯ものは……もう全部取り込んだからいいか」


 俺は一瞬窓の外を見て立ち上がりかけたけど、洗濯ものは全て家に入れたのを思い出したのでまた着席した。



 どんよりしてきた窓の外を見ると少し残念だと思った。



「雨だと花火は延期だな」


 そう言いながら俺は海鮮丼を魔法のカバンから取り出し、眼の前のテーブルに並べていく。

 

「正直ショータの言うハナビというものがよくわからないけど、何かのイベントが流れたのは分かるわ。カイなんかが来るから雨が降るんじゃない?」


「ひでーな、ミレナは」

「まあ、まあ、仲良く」


 俺がミレナを宥めながらあちらで買い込んできたお茶やジュースといった飲み物を適当に選んで海鮮丼の側に並べて行くと、カイが声を上げた。



「生魚!」


 ん?


「カイ君は生魚が苦手だったかな? お肉もあるよ」

「いえ、いただきます! ショータさんの出してくれるものにハズレはない気がするので!」

「そっか、期待値が高いな」


 今回のはそこまで高級なもんじゃないんだが。

 まあ、とにかく食おう。



「生の魚の切り身がオコメにのっている海鮮丼とやらは美味しいわ。

 お魚もなかなか新鮮なんだと思う。骨もなくて食べやすいし」

「これも悪くない、エビも入っていたし、プリプリしていた」

「イクラ美味ェッス!」


「それは良かった、食後のデザートはケーキだぞ」


 チョコケーキにイチゴののった生クリームのケーキに、モンブランに、艷やかで色鮮やかなフルーツが敷き詰められたタルトケーキとチーズケーキ。


「どれも美味しそうで……目移りするわね」

「選ばないなら俺から選ぶぞ」

「え、ウソ、ちょっと待ってエルフ」 

「あ、俺ぇ、チョコいいですか?」

「まだ労働もしてないのにこの男!」  


「まあまあ、落ち着けミレナ。新人君も勉強はしてくれた。それで結局どれがいいんだ?」

「うう、じゃあ私はタルト」

「じゃあ俺は栗のクリームのを」


 カイがチョコケーキ、ミレナがタルトでジェラルドはモンブランを選んだ。



「では俺はいちごのショートケーキにしよう、チーズケーキは売り物にまわす」

 

 各々が選んだケーキを美味しく食べた。

 すっかり暗くなった外からは雨の音。


 俺はケーキを食べ終えて、足元にいるラッキーにカリカリのペットフードをあげた。

 ミラはお土産のお人形の着せ替えをして遊んでいる。

 人間の幼女とかわらないな!

 かわいかったので、思わずスマホを構えた。


「タルトケーキは美味しかったわ。見た目も一番華やかだったし」

「ああ、そもそもタルトは女性人気高いんだよな、見た目もキレイだし、俺の姉もタルトケーキが好きだったよ」

「ふーん、そうなのね」


「とりあえず今夜は風呂に入って歯を磨いて早めに寝るとしよう。

 明日は伯爵様の所だが、明後日からは久しぶりに店を開けるからな! ミレナは早く風呂に入れ、男の後は嫌だろう」

「分かったわ」



 * * *



 時は戻り、伯爵様と錬金術師に会った翌日のお話。


 ついにお店再開の朝。


 味噌汁と焼き鮭と海苔と白いご飯で和食を朝食にした。

 皆、問題なく食べてくれた。

 昨日はケーキを食べたからカロリー的に和食でバランスをとろうとしたのだった。



 今朝は晴れてよかった。

 店の前にテントをはり、そこでティッシュだけ売ることにしたのだ。


 開店前から客は行列を作っていた。

 営業日の告知メッセージを黒板に書いていたせいだろう。


「開店しまーす!」



 俺がそう声を張り上げたら人がテントの販売ブース前にたかる。

 またオイルショックのようにティッシュ関係から勢いよく売れて行く。


「ティッシュ関連の在庫は終わりました!」


 俺は額の汗をぬぐって緊急販売ブースにSOLD OUTの札を立てた。


「毎回少ないのでは?」

「そうねぇ、もっと買いたかったわ」


 お客様に言われた。


「どうしてもこれらはかさばるので、申し訳ありません」

「まあ、いいわ、今日はどんな新しい物があるかしら」

「楽しみね!」


 日傘を折りたたんで御婦人達は店内に入って行く。


 新しい下着などがあります!

 ミレナ、頼んだぞ!


 俺はミレナに通信ブレスレットの音声を流してもらった。スピーカーモード搭載!


 二階の音声を拾いつつ、俺はカフェの方の仕事もする。



「まあ、この花柄の布、凄くかわいいわ! これでドレスを作りたいし、ああ、針子も連れて来れば良かった、どれだけ布を買えばいいのかわからないわ」

「おそらくはひと巻き買ってしまえばよろしいかと」


 ブレスレットからミレナの声が聞こえた。


「ではとりあえずこの布をひと巻きいただくわ」

「私もコチラをひと巻き」

「こちらの美しいレースもいただくわ」


「ねぇ華やかで素敵ね、この下着」

「本当に美しい花柄だわ」

「全て新入荷の物でございます。サイズの表記はここに」



「水着があると聞いたのたけど」

「お客様、水着はこちらです」

「本当に喋るお人形さんがいるのね!」


 ミラの案内する声も聞こえた。


「あなたは買えるの?」

「いいえ、私は非売品です」


 おーい、ミラを買おうとしないでくれ。

 可愛いから気持ちは分からんでもないが!


 カフェの方は買ってきたケーキを一種ずつテーブルに置いて好きなのを選んで貰うことにした。


「こちらの本日の限定ケーキは終わりました!

 他はメニューをご覧ください!」


「パンケーキお待たせしました!」

「フルーツポンチでございます」

「アイスクリームでございます」

「クリームソーダでございます」

「ハンバーガーセットでございます」



 カフェも怒涛の忙しさ!

 狐くんも頑張ってくれてる。

 魅力的なフサフサの尻尾を揺らしつつ、ウェイターをやってくれてる。


「ショータ、さっきからなんで男の尻ばかり見ているんだ?」

「違うぞ、ジェラルド!

 俺が見てるのは尻ではなくて尻尾!」

「まったく、ラッキーもいるのに何故そうも尻尾に惹かれるのか」

「あれもこれも良いフサフサのもふもふだから!」

「尻尾好きが治らないな」


「ふふふ、ショータさん、俺の魅惑の尻尾に触りたいですか? 軽くならいいですよ」

「え!? いいのか? やったぜ!」


 俺が狐くんのフサフサの尻尾に手を触れると、

 営業時間外にしろ、忙しいのに。と、ジェラルドに怒られた。

 た、確かに!








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