第3話 市場から花街へ

 押し入れから異世界へ来た俺。

 今はアヒルの卵を売りに異世界の市場に来ている。

 色鮮やかなテント、木製の屋台などがずらりと並んで、活気がある。


 へー、知らない果物や野菜も並んでる。


 ちょうど建物の日影になる場所でジェラルドは足を止めた。


 そこで小さな木の切り株椅子を二つと敷布を1枚、魔法のカバンから出した。

 ジェラルドは俺にも椅子に座るように勧めてくれた。


「ありがとう」

「ああ」

「しかし、色んな人がいるなぁ」

「ああ、この国はわりと緩いから、色んな種族が集まって来ている」



 肌の色も違う多国籍な人間経ちの他にも、いろんな獣人もいて、凄く興奮する。

 あ!

 茶色い耳にモフモフしたくなる尻尾を持つ女の子が俺の眼の前を通り過ぎた!



「ジェラルド、あの娘、尻尾ふさふさだよ、かわいいな!」

「ああ、フォックス属の娘だな」


 ジェラルドは見慣れてるのか、クールな反応だ。


 狐ちゃん!

 あ、いかん、異世界の獣人に見惚れてばかりでは! 

 家に泊めてくれたお礼に売り子の手伝いをしよう!

 俺は大きく息を吸い込んでから、声を張った。



「アヒルの卵、いかがですか!? 今朝とって来たばかりですよ!」


 いつ産んだのかは不明だが。

 すると、たぬきらしき耳と尻尾付きの、ふくよかな奥様風の人が店の前に止まった。



「六個ほどいただくわ」

「いらっしゃいませ! ありがとうございます!」


 営業言葉くらいは丁寧でもいいよな?

 商人風に。


 こんな感じで売り子を手伝って、卵は昼には無事に完売した。


 そういや獣人いろいろいるわりに、猫や、うさぎや狐、タヌキ、犬系はいたけど、鳥系の獣人は見ないな。

 アヒルの卵を売りながらアヒルの獣人と会ったら気まずいから助かったけど。


「さて、売り子も手伝ってもらったし、この売上げで何か買っていくか」

「食べ物?」

「あ、あれにしよう」


 艷やかな緑の葉に包まれたものをジェラルドは二つ買い、一つを俺にもくれた。

 この葉っぱはバナナの葉に似てる気がする。


 緑の葉っぱをめくると白いちまきのようなものが入ってた。

 ほんのり甘くて、優しい味がした。美味しい。

 やはり味も見かけも、ちまきそっくりだった。


 さらに肉が焼ける美味しそうな匂いにひかれ、

 串屋の屋台でも足を止めた。


「串焼き四本くれ」

「毎度ありー」


 二人で二本ずつ食べた。

 俺はまたご馳走になるのでお礼を言った。

 串焼きの肉はかなり食べごたえのある硬さで、味は悪くない。

 歯が弱ってなくて良かった。


 肉に硬さがあってかなり噛んだから、わりと満腹中枢は刺激された。


 ジェラルドはさらにパン屋でパンを四つ買って、魔法の収納鞄に入れた。

 非常食か夜の分かな?



「さて、お待ちかね、この後に歓楽街に向かおうか」

「ありがとう!」



 スケッチブックには既に描いてある絵もあるから、それを花街に来ている男性の客に見せて、売れそうか反応を探ろうと思う。



 俺はジェラルドの案内で馬車乗り場へ移動した。


 そんで当然乗り合い馬車で移動になった。

 いかにもファンタジーな世界だ。

 馬車にてしばらくガタゴト揺られて、日が暮れつつある道を行く。 


 空はすっかり夕焼け色に染まった頃に、赤い門が見えた! 


「赤門に到着でーす」


 御者の声が聞こえ、ついに歓楽街へ到着した!



 色んな店が並んでいる。


 魔法の石でも入ってるらしい、ランタンの中の石が発光してる。


 完全に夜になって真っ暗になる前に絵を見せたいけど、どこで客を引けばいいのかと、キョロキョロする俺。


 それぞの店舗の前では客引きがいい娘がいるよーと、声を張り上げている。


 ジェラルドはカバンからランタンを出した。

 これも魔法の照明らしく、石に触れただけで発光しだした。


「ショータ、あそこの路地裏が使えそうか見に行こうか」

「あ、ああ」


 ジェラルドの手にランタンがあるなら灯り問題は解決した。


 俺達は建物と建物の狭間、あまり広くはないが狭過ぎもしない場所に来た。


 まるで怪しい薬売りみたいだが、俺が売りたいのはただのえっちな絵だ。



「ここで良さそうだな」

「俺が声をかけてきてやるよ」


 高貴なエルフにそんなこと!


「ジェラルドにそんなことさせられないよ。ランタンだけ貸してくれたら自分でやるから」

「そうか?」

「なんで、ジェラルドは暇だったら花街を見てくるといい」

「いや、花街よりショータの行動を見てる方が楽しそうだ」

 

 エルフはニヤリと笑った。

 さ、左様でございますか!


 俺は吉原の花街の店のように、格子の向こうに見える女を見て、だけど勇気がでないのか、金が足りないのか、煮えきらずに店に入らない感じのする人を探して、声をかけてみた。






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