第2話 卵沢山
朝、目覚めて、久しぶりに衣食住の心配をせねばならない。
昨夜は泊めてもらえたが、俺の家ではないからして、まず、稼ぐか。
あるいは森で洞窟でも探して……いや、洞窟は家賃がいらなくても虫が……。
そしていつ野生動物が襲ってくるかも分からない。
倒せばレベルが上がるか?
あ、まだやってなかった。
試すか? 異世界では、お決まり、定番の
「ステータスオープン!」
チュンチュン、ピチチチ。キーッ!
……なにも、開かない!
響いてくるのは鳥の声と、何かの獣の声しか聞こえない。
ここは森の中の木の家、エルフの住居。
駄目か。
レベルとステータスは無しか?
そんなうまくはいかんか。
さて、ひとまず顔を洗って朝飯。
「おはよう、ショータ。昨夜は食わせてもらったから、今朝は俺が。豚肉は食べれるか?」
「食べられます!」
ありがたい! エルフ優しい! 人間に優しいエルフで良かった!!
おそらく魔道具の一種であろう、キッチンのコンロの前にたち、バーベキュー用の挟んで焼く網のようなもので、切ってある豚肉を挟んで焼いていくエルフ。
ん? エルフは塩胡椒はしないかんじ?
あ、塩はともかく胡椒は貴重なかんじ?
「あの、良ければこの塩胡椒をしたほうが美味しくなるかと」
俺は塩胡椒の容器をリュックから取り出してジェラルドに手渡してみた。
「ああ、ありがとう、食べる直前に岩塩は振ろうかと思ってたけど」
なるほど、調味料は岩塩か。
「それ、胡椒も入ってるんで」
「しかし、コショウは高いんじゃないか?」
別に! 自国ではそんなに!
でも昔は黄金と取引きされるほどの価値があったとかだし、やはり異世界もそうなのか。
「せっかくのお肉ですし、美味しくいただきましょう」
「ショータ、実は家出した貴族の令息だったりする? 話言葉も、丁寧だし」
「違います! 庶民です!
会ったばかりの俺を泊めてくれた親切な方に礼儀をもって比較的丁寧に接してるだけです!
そういう風に育てられただけで!」
一応大人なんで!
「そ、そうなのか。後で一緒に川に行こうか、アヒルが卵を産んでるから」
「はい! 是非に! ん? 鶏じゃなくてアヒル?」
「そう、アヒル」
「あ、肉、いい感じに焼けたかもな」
「いい焼き色です」
「ところで、お前、ずっと丁寧に話してると貴族と間違えられるぞ」
ん、タメ口オーケーだよって意味でもあるんだよな?
「あ、えっと、いい焼き色だな」
「はは、そうだな」
ジェラルドはいい顔で笑った。
イケメン……! 眩しい!
食卓に座り、朝食タイム。
出会ったエルフが肉食可能な方でよかった、イメージ通りの葉っぱや木の実だけの食生活だとやや辛い。
うん、いい色に焼けた豚肉は、地球産のとあんま変わらない味がする。
おまけにバゲットにとろーりとしたチーズまでかけて出してくれた。
こちらも美味しくいただいた。
気分はアルプスの少……いや、アルプスのおじさん。
でもあちらは硬い黒パンだったかな?
このパンは小麦粉のものの気がする。
美味しい。
食後に皿を洗いを手伝ってから、ジェラルドは竹で編んだかごを取り出し、背負った。
篭の上には竹で編んだザルのような物を置いてある、蓋のように被せてる。
つまり、この世界のどこかに竹もあるんだな。
植生が地球と似てるとは、助かる。
竹がこの森のどこかにあるなら家も作れるだろう、多分。
食後にイケメンエルフは竹籠を背負い、竹取の翁スタイルで家を出て歩いて行く。
俺はその後にリュックを、背負い、ついていく。
森を歩き、涼やかな川のせせらぎの音が近付くと、
開けた場所に来た! 川だ!
白いアヒルの群れがいた! 嘴も黄色い、地球のと同じに見える。
馴染みのあるフォルムにほっとする。
そして川っぺりに大量の卵よ!
「わあ! すげぇ! アヒルと卵が沢山!」
川の側に卵が無防備に沢山ある! ゆうに百個はある! ただ食材!
「取り放題だぞ」
「え、あ、でも絶滅しないように、三分の一くらい残さなくて大丈夫か?」
「いたるところでしょっちゅう産むから全部取っても平気だ」
「そっか」
「俺たちが見逃しても他の人間か蛇とかが取って食うし」
なるほど、遠慮はいらないのか。
では失礼して、あ、竹篭の中には籾殻が入ってる。
卵が割れないようにか。なるほど。
卵をしまうと急にジェラルドが上半身に着ているシャツを脱いだ。
そのまま水の深い場所まで移動したと思ったら、バシャンと後ろに倒れるように水に浸かった。
そしてそのまま泳いでる。
朝風呂の代わりなのかもしれん。
──……俺の想像してたエルフの水浴びシーンとちょっとイメージ違った。
でも、まあいい。
俺もパンイチになって川で汗を流した。
火を炊いて、パンツ乾かしてから出かけるんだと思ったら、エルフが風の魔法であっという間に乾かしてくれた。
なんと便利な!
そういう訳で、沢山の卵を収獲し、ジェラルドとそのまま市場にきた。
卵を売りさばいてから、俺を歓楽街に案内してくれるらしい。
優しい!! 助かる!!
そもそもエロ絵を描いて売るのが目標だし。
卵の売り子をしつつ、雑談で情報収集。
「竹、いやこの篭の植物は何処に生えてるのかな?」
「バンブーなら夏の森に沢山生えてるぞ」
「夏の森? 今は春では?」
「ずっと夏みたいに暑い森があるんだよ」
ずっと暖かい地域?
「いろんな果物も実ってるよ、暑いけど」
「へえ」
「ここから近い? 遠い国?」
「そう遠くはないよ、半日で行けるけど、竹が欲しいのか?」
「竹っていうか、住むとこ、家が欲しいから竹があれば最悪家賃無しの家が作れるかなって」
「俺の家にいてもいいのに」
「ええ!? ジェラルドは、その、こ、恋人とかは?」
「いたら誘わないけど」
「あ、それはそうか、でもジェラルドはなんでそんなに親切なんだ?」
会ったばかりの俺に……
「ショータみたいに女体画で一儲けしようとかいう面白い人間の男、初めて見たから」
あ!! おもしれー男の判定いただいた訳で!
「それに、人間はエルフの男に会うと、たいてい未婚の妹か姉はいないかって聞いて来るのに、お前は聞かなかったな、変わってる」
だってエルフと人間では、種族が違うし。
「じゅ、寿命も違い過ぎるし」
「まあ、それはそうだな」
そう言ってエルフは少し寂しげに微笑んだ。
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