第4話 混ぜたら危険な王妃と魔術師
魔法の才を持った王妃シェリアと筆頭宮廷魔術師レミアが喧嘩をし、中庭と王城の一部を破壊した日から3年が経った。
3年前に無惨に破壊された中庭は以前同様綺麗な花が咲き誇り、王城の修復も終わっている。
3年前と異なる点を挙げるとするのならば王城の敷地内全域に魔法の発動を阻害する特殊結界が常時貼られるようになったことと、中庭にはそれに加え魔力吸収の結界が張られたことだろう。
理由は言わずもがなである。
だが、そんな理由知ったことかとばかりに中庭でその二つの結界が破られようとしていた。
「『結界破壊』はねぇ、込める魔力の量とイメージが大切なのよぉ。上級魔法より少し多いくらいの魔力を騎士が使う剣と同じ位の大きさに圧縮するのぉ。こんな感じよぉ」
この国の王妃シェリアがそう言った後、言葉通りの形と魔力量の魔法が空に向かって放たれた。
その魔法は空中の一見何もないところで少しの間動きを止め、次の瞬間ガラスが割れるような音と共にそのまま空に飛んで行った。
「それじゃあ、アルシェちゃんもやってみましょう〜?」
「はい、お母様」
「やめて!?やめてください王妃様!」
「王女殿下もです!」
「結界を壊すのは止めてください!怒られるのは私たちなんですよ!?」
結界が破壊されたのを確認して隣にいる娘ーーレイン王国第一王女のアルシェリーナにも同じことをさせようとするが、側にいたメイド達が必死に止める。
このメイド達はシェリアとアルシェリーナの専属であり、このような場面に何度も立ち会っている。
そのため上司達から2人のこうした行動を止めるようにと厳命されているのだが、ふとした思いつきでこうしたことをやるので止めるに止められず毎回怒られているのだ。
そして次に止められなかったらしばらくの間言及するとも言われているでいつにも増して必死である。
「でもぉ、もう私が一枚壊しちゃったし変わんないでしょう〜?」
「いいえ!いいえ!」
「一枚と二枚では天と地ほどの差があるんです!」
「これを止めるだけでも私たちは助かるんです!」
必死。
メイド達は鬼気迫る表情でシェリアに説明をする。
今辞めてくれれば私たちは助かると。
その様子にシェリアも今回ばかりは聞き入れた。
「そうなのねぇ。じゃあアルシェちゃん、残念だけど今日は別の魔法にーー」
「『結界破壊』
パリィィィィィィィンッ。
中庭に無情にも響き渡る音。
絶句するメイド達。
あらあらぁとほんわかしている王妃。
目を輝かせ魔法が成功したことを無表情で喜ぶ第一王女。
その身に纏うドレスのスカートをふわりとさせてアルシェリーナは振り返る。
「できましたお母様」
『ガッデムッッッ!!!』
膝から崩れ落ちこの世の終わりとばかりに叫ぶメイド達。
アルシェリーナはその光景にビクリッと体を震わせシェリアあの後ろに隠れる。
魔法の才能があり人の話を全く聞いていなくともこうした部分はまだまだ五歳児である。
自分の後ろに隠れたアルシェリーナの頭を優しく撫でつつ、シェリアは未だ崩れ落ちているメイド達に声をかける。
「そのぉ、私から言っておくわねぇ。今回はあなた達に非はないって」
瞬間ガバッと顔を上げるメイド達。
ビクリッと震えるアルシェリーナ。
「王妃様、一生の忠誠を誓います」
「私もです」
「私も」
「私も忠誠を」
先ほどまでの必死さや悲惨さはどこへやら。
思わず賞賛したくなるほどの美しい姿勢で王妃の前に膝まつき忠誠を誓うメイド達。
見るものが見ればそれは国王から叙勲を受ける騎士のようである。
「そこまでしなくてもぉ‥‥‥」
シェリアはメイド達の様子に思わず苦笑いを浮かべる。
アルシェリーナはいまだにシェリアの後ろに隠れて震えている。
そこへドタドタと何人かが固まって向かう足音が聞こえてくる。
そちらへ目線を向ければーー
「またですか王妃様ぁ!」
「王女殿下もぉ!」
「お前達ィィィィィィ!あれほど止めろと言っただろうぅぅぅぅぅぅ!」
おそらく結界が破壊されたのを受けてきたであろう数人の騎士と魔術師、さらにはメイド達の上司である執事長がこちらに走ってきていた。
メイド達は執事長の姿を見て途端にガクブルしだす。
シェリアは困ったような気まずそうな笑みを浮かべ言った。
「とりあえず、みんなで謝りましょう〜」
天然チートの第一王女殿下、表情筋が死んでいる 猫魔怠 @nekomata0827428
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