第4話 神からの贈り物

 デスゲームが終結し、探索者もいなくなって、ダンジョンが静かになったところで、俺は、亡くなってしまった魔物を弔った。


「ありがとな。魔物達にはそのような文化がない。だが、きっと救われる」


「失われた命は戻らない。だから、俺にできる、せめてものことをしているまでだ」


 家族の死に俺は何もできなかった。


 力及ばなかった自分を悔やんでも悔やみきれない。


 俺は、今もこうして、助けることができなかった命を、弔う事しかできない。


:素晴らしい心持ちだ

:全くだ。このような人間が今でも居る事をが誇らしい

:先程の人間達とは比べるまでもなく聖人だな


「そんで、さっきから気になってたんだが、これはなんだ?」


 俺は空中を横切るコメントに指をさして聞いた。


 ついさっきもそうだったが、気づけば空中を文字が横切っている。


 探索者の奴らは気づいていなかったようだが、思わず反応してしまう程の異物感だ。


「これは、いわゆる神からの啓示のようなものだ。選ばれた者にしか見る事はできない」


「へー?」


 神からの啓示なんてうさんくさいが、俺のデスゲーム中は、不許可のスキルを発動する事ができない以上、超常の力という事は事実だろう。


:全く、人間がここまで落ちぶれていたとは。嘆かわしい

:しかも、人間が落ちぶれているという事を、地上へ落とした邪神から受け取る事になろうとはな。嘆かわしい

:はあ。全く、嘆かわしい。嘆かわしい


 なんだかジジババくさいコメントに苦笑いしか出ない。


 だが、なるほど。神に伝えるというのは、思ったよりも上手くいっているらしい。


 べフィアの目的を達成するには、ダンジョン配信者として配信するより、よっぽど目的に合致してるかもな。


 まあ、視聴者がどれだけいるのかはわからないが……。


「しっかし、俺達に理解を示す神がいるんだな。てっきり、神に見せれば、俺らが天罰でも喰らいそうなもんだが」


「もちろん、必ずしも全ての神が賛成している訳ではないだろう。だが、理解を示してくれる神がいる事は信じていた」


「実際、こうして見てる訳だしな。魔物が救われるといいな」


「ああ。もちろん、ジンの復讐も上手くいくよう取り計らっている」


「へー?」


:次はまだか

:まだでいいのだ。こういうものは、連続してはありがたみがないものだ

:しかし、先程の規模では、この者が生きている間に遂行できないのではないか


 とても、俺の復讐に利益があるようには思えない。


 なんだかしきりにやり取りしてるのはわかるが、あくまで人間がどうのという事な気がする。


 面倒臭いことは無しだ。


 俺は別に人間を正すとか、そういう事に興味はない。


 家族を殺したアイツらに復讐する。そのついでに、魔物の被害を小さくできるなら協力するだけだ。


 良いか悪いかなんて事に興味はない。


 べフィアとの協力だって、俺にデスゲーム外の探知能力はないからだ。


 いや、待てよ。今、神に配信してるんだよな……。


「べフィア。これが伝達ってんなら、人間のやる配信でできる事は、大抵できると思っていいのか?」


「そう思ってもらって差し支えない」


「なるほどな」


 だったら、使えるものは使うまでだ。


「さ、神様達! 俺達に何をお望みで?」


:ふむ。決まっている。人間の誤りは正さねばならぬ

:邪神がついているだけでは、我らの代わりに人を直していってくれるか不安だ

:なに、暴力がいかに幼稚で無力なものか、圧倒的な暴力をもって示せば良い


「じゃあ、このまま進めてよろしいのですね?」


:いいや。ダメだ


「え?」


 思った反応とは違った。


 止められるのか。


 何か便利なものでももらえたらと思ったんだが、そう上手くはいかないか。


:なに、案ずるな。このままではダメというだけだ

:先程の者達は下の下。生身で勝てる相手だったからなんとかなったというもの。そうだろう?

:そのうえ、これまで我らの言葉を受け、行動してきた者達にだけ奇跡を与えるというのは不公平というものだ


「と言うと?」


:力を与えよう


 その瞬間、ダンジョン内が激しい光に包まれた。


 爆発も何もなく、なんの前触れもない発光に、俺は思わず笑みをこぼしてしまった。


 配信でできる事がなんでもできるというのなら、投げ銭だってあるはずだ。いや、もっと多くの事が可能だろう。


 神の力、奇跡。


 こんなものを受け取れるなら、使わない手はない。


 活動資金だって、これからは必要になってくる。


「いいじゃねぇか!」


 不思議と力があふれてるくる。


 これが奇跡。これが、神の力。


 今ならなんでもできそうな気がする。


 しばらくすると、光は収まり出した。


 だが、光が収まっても、特に何も物は現れてなかった。


 いや、物はなかったが、俺はすでにそれを身につけていた。


「何これ。ひらっひらの服に、聖剣?」


「神の使いとしてふさわしい格好という事じゃないか?」


:邪神の癖に理解がいいではないか

:少女天使にふさわしい服装だ

:天上からの言葉を届ける者に相応しい衣装だ


「……。恥ずかしいんだけど、スカートだし」


 なんだか、神々が興奮気味にコメントを送ってくるが、俺に女装趣味はない。


 まあ、今まで着ていたダボダボの服よりはマシだろう。


 それに、見た目が少女のものに変わり、白いふんわりとした布を身につければ、確かに、天使みたいかもしれない。


「なんにせよ、もらったもんは使ってみるか。ほっ。おおっ!」


 軽く跳ねただけだが、ビル三十階分くらいは余裕で飛べた。


 さらに、この服を着ていない時よりも、体が軽く、動きも俊敏になっている。反復横跳びの要領で百メートルを左右に移動できる。


 これなら、落ちた機動力や、元から低い戦闘力を補えそうだ。


「それで、こっちの剣は!」


 軽く振っただけで、衝撃波が飛んでしまい、遠くの大岩が砂利山に形を変えてしまった。


「こわぁ……」


 剣士じゃなかった俺が、ここまでの威力を出せるとなると、恐ろしい聖剣だ。


 だが、ワンチャン狙いの奴らに、スキル以外でも反撃の手段を持てるのは重要。


「まだ体に馴染んでないせいか、少しずつ力が浸透していってる感じがある。この力、伸びるぞ! 今から次が楽しみだ」

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