第3話 第一回デスゲーム

 魔物の神、べフィアに連れられ、ダンジョンを歩いてきた。


 魔物の神というだけあり、ダンジョンの中を正確に把握しているらしい。


 迷う事なく、薄暗い似たような道を、地図も持たずに、ずんずん歩いていく。


 しかし、途中まで俺の小さな体を気遣って、ゆっくりと歩いてくれていたが、急に走り出した。


「急ぐぞ」


「え?」


 必死についていこうとするが、小さくなった体に、慣れていないせいで、体が思うように動かない。


 べフィアの背中がどんどんと小さくなっていく。


「待って、待ってくれよ」


「いや、やめて。いやあああああ!」


 突然、叫び声が聞こえてきた。


 人のものとは少し違う、魔物の叫び声だ。


「また、間に合わなかった……」


 やっとのことでべフィアに追いついたが、その顔は、絶望に染まりきっていた。


 目の前には、無惨にも剣で切りつけられた魔物と、三人の男の姿。


「はい、雑魚乙ー。魔物倒しましたー!」


「トバオ強くない? チョーヨユーじゃん」


「たりめーだろ。俺はサイキョーだからな」


「ヤッバ! ずっと無双だよな!」


「みんなも見ててくれたよな! うんうん。ありがとうありがとう!」


 三人の男達は、倒れた魔物の前で、何やらピーチクパーチク言っている。


 スマホに向けて、笑顔で話しかけながら、どーでもいいことで笑っている。


 先ほどまで生きていた魔物の事など、放置して。


「あ、やべ、踏んじった。きったねー」


「マジそれな! さっさと消えろって感じだよな!」


「な。でも、消えたら素材にならないだろ!」


「確かに! にしても、ゲームみたく、アイテムとか、石とかに変わるといいんだけどな」


 彼らは、魔物をなんだと思っているのだろう。


 魔物だって生き物だということを、考えたこともなさそうだ。


「これが、ダンジョン探索者の実態だ。金儲けのために魔物を襲い。人気取りのために魔物を襲う。そして、殺された魔物は、どこに行ったとも知れず、家族は死んでいることにすら気づけない」


「ひどい……」


 これが、俺が世のため人のため、協力してきたダンジョン探索者の姿か。


 俺の復讐は、同時に償いだな。


 魔物も生きてるんだ。


 だから、このデスゲームは、誰かがやらないといけないんだ。


「俺が行く」


「頼む。ワタシの力は把握と伝達だ。この状況を神に届け、改善を願うのみ。どうか、魔物達を助けてやってくれ」


「わかった」


 べフィアの視界はカメラ代わり。


 俺はあいつらと違って、自らカメラを用意する必要はない。


「あん? んだ、嬢ちゃん。兄貴にでもついてきて迷子になったか? そのダボダボの服は兄貴のか?」


「そうか。確かに服はあの時のままか。となると、そう見えるのか」


「ん? なんつった?」


「なんだっていいだろ。俺の見た目なんてどうでもいいことだ。そんなことより、デスゲームしようぜ。お前らプレイヤーな?」


「は? デスゲーム? なんだ? ドッキリか?」


「え、なになに? 誰が仕掛け人?」


「俺じゃねーよ? おーい。誰かいるんだろ? ダンジョンで子供使ってドッキリなんて、ちょっと気合い入りすぎじゃないか?」


 三人は、デスゲームということを、まともに信じていないらしい。


 俺の相手もしないで、近くをキョロキョロと見回している。


 そうか。今の俺の姿、デスゲームのマスコットにピッタリなんだな。


 可愛い可愛い女の子だもんな。


 確かに、今までの見た目でやるより、雰囲気が出るってもんだ。


 だが、このままじゃ話が進まない。


「ドッキリじゃねぇよ。デスゲームだ、デスゲーム。ルールの説明をするから黙って聞いてな」


「いやいや、お嬢ちゃん。役に入り込んでるとこ悪いけど、ここダンジョンなの。お金もらってるかもしれないけど、言うこと聞かないんなら殴るよおおおおおお」


「シュウノスケ? シュウノスケ!」


 俺に向けて拳を振り上げた男は、魔物以上に切られて倒れた。


「黙ってろって言ったのに、話しかけるからそうなるんだよ。三人しかいねーんだから、一人見せしめで死んだら、一対一の、ただのバトルゲームになっちまうだろうが! まあ、お試しだ。人間に対して、俺の使えることがわかれば、それでいいんだ」


「シュウノスケ! シュウノスケ! おい。マジかよ。死んでる……」


「は? 死んでる? いや、これドッキリじゃねぇの? 入れ替わってんでしょ?」


「ドッキリじゃねぇよ。んなわけねぇだろ。お前ら相手に、俺みたいな少女を使ってやる訳ないだろ。無名無能」


「おい。誰が無名無能だって? ふざけんなよ? よくもシュウノスケを!」


「待て、落ち着けって! ドッキリじゃない。シュウノスケは本当にやられたんだ。ここで下手に動くのは得策じゃない。とりあえず話を聞こう」


「チッ。しゃあねぇ。さっさと話せ」


 こいつら、立場をわかってないみたいだな。


 ま、初めはこんなもんか。簡単に説明してやろう。


「ゲームだよ、ゲーム。デスゲーム。二人になったから、どっちかが生き残るまで好きなようにやりあってくれ」


「そんだけか?」


「そんだけ。一対一じゃヒリヒリしないだろ。さっさと決着つけてくれる? 出ないとどっちもアウトって事でもいいけど?」


「話したい事はそんだけかって聞いてんだ!」


「フウタ?」


「トバオ。こいつは一人だ。説明も終わった。なら、デスゲームらしく決着をつけるべきだ。デスゲームマスターと戦ってな」


「ああ。そうだな! 聞いたのはそのためか!」


「なに? 俺を狙おうってのか?」


「そうだよおおおおお! ああああああああああ!」


 攻撃動作に入る前だったから、男の腕だけが吹き飛んだ。


「つまらない事しようとするからそうなるんだよ。まあ、実力差が見えていたんだ。これくらい覚悟してやったんだろう?」


 探索者をやってながら、片腕を失ったくらいで、地面に膝をついて動かなくなってしまった。


 これじゃ、デスゲームにならないんだが……。


 難易度調整が必要か?


「トバオ。俺の、仇を、取ってくれ……」


「……俺は、俺は……」


「どうする? お前も俺に立ち向かうか? それでもいいぜ?」


 ハナから改心する事なんて期待しちゃいない。


 どうせ、こいつらは救えない。


「……」


 まだ無傷の男は、俺に背を向けると、仲間の前に立った。


「お、おい。トバオ? 冗談だろ?」


「フウタ。悪いな。俺が助かるためだ。犠牲になってくれや」


「ははっ! 勝てないと踏んで仲間を売ることを決めたか! いいね! サイコーにクズだな!」


「黙れ! ごめんな。フウタ」


「い、嫌だ。待て、トバオ。嫌だ。いやだあああああ!」


 トバオの手によって、フウタは動かなくなった。


「あははっ! あっははっ! あーはっはっはっ。こいつ、本当にやりやがった。諦めるの早すぎだろ! だが、期待した通りだ。そうだよ。そうでなくっちゃ!」


「さあ。これでいいんだろ? 俺一人残った。終わりにしてくれんだろ?」


:人間がこんなにひどくなっていたとは

:怠惰の極み……

:これが我々に似せて作った者達の現在だと?


「んだこれ」


「は?」


 今、変なコメントが流れた気がしたが、今はいい。


 終わりは終わりだ。


「はーいはいはい! そんなわけで。助けてやるよ」


「本当か! もう、魔物も殺さない。探索者なんて辞める。だから、なあ? 自由にしてくれるんだな?」


「いいや? 自由なのは次のゲームまでの間な」


「へ……?」


 俺の指パッチンと同時に、生き残った男の首にチョーカーが現れた。


「な、なんだこれ。と、取れねぇ!」


「それは俺のスキルによる参加者の証。ルール違反者を裁くチョーカーだ。あんまり好き勝手すると……。あとはもうわかるな?」


「はい!」

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