第60話 駒合わせ

「我々も極東に事務所を構えたほうがいいな」

ファン・ソーメレンは会議の席でそう言った。委員会が極東に連絡事務所を開設するという情報を踏まえてのものである。


「その男はそんなに有力なのか?」

列席者の一人がそう訊いてきた。


「有力かどうかは知らんが」

ファン・ソーメレンはそう言って一拍開けた。


「彼は第二世代の嗣子だ」

ファン・ソーメレンがそう言うと列席者に静かなどよめきが起きた。


彼らにとって第一第二世代というのは特別な存在である。第一第二世代はそれぞれ独自に生活または活動している者が多く、その力もよく判っていない。その第二世代の嗣子が委員会の命令で動くのなら警戒は必要だった。


「立派なお祖父様を持つと大変だな」

列席者の一人がそう皮肉を言った。


「駒を合わせるだけさ」

ファン・ソーメレンは眉を上げて笑った。


歩兵ポーンが前に出たらこちらもそれに合わせるだけだ。それでどちらかの駒が失われるかも知れないが、それが直接王手チェックメイトにはならない。だが放置するわけにも行かない。その程度のものという意味である。

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