第59話 リセットする女

「僕も一緒に行くよ」

もう何人の男が同じ事を言ったかエリーズは覚えていなかった。


「ダメよ」

エリーズは面倒くさくなって簡単にそう言った。


「奥さんを大事にしてね。じゃあ」

そう言ってエリーズはカフェを立ち去った。さすがに会計は男任せだ。


女性の嗣子は男性に比べてかなり恋愛事情が自由である。男性の場合は暗黙的にパートナーの生活を保証する必要がある場合が多いが、女性の場合は妊娠するのは自分なので、自分が気にしなければ種だけもらって後は勝手にできるからである。


そういう意味でエリーズのボーイフレンドも半分は妻子持ちだったりするのだが、彼らは揃いも揃ってエリーズと別れるのを嫌がった。それはまあ当然とも言える。エリーズは美女な上に社会人として独立した独身女性で、しかも一族の例に漏れず非常に床上手なのだ。幾人かは妻と離婚して一緒に日本に行くとまで言った。


しかし結局、彼らはエリーズを懐妊させるには至らず、またエリーズも些か手を広げ過ぎたと反省していたのである。日本に行くのはイヤだが、丁度いいので彼氏関係をリセットしようと思ったのだ。


「待ってくれエリーズ!」

うっさいなあもう。いい年したおっさんが。


足早に車に乗り込んでとっとと出発してしまうエリーズであった。

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