第46話 栄光の第三世代

「まあ無理だとは思っていたわ」

ユーロフューチャー・アムステルダムを出て、タクシーで先日のカフェに行き、待ち合わせをしていたエリーズに報告すると彼女はそう行った。


「おいおいそれじゃ何のために」

和樹が文句を言うとエリーズはビジネスライクな笑顔を浮かべて説明した。


「パパが行くことそのものが警告になるのよ」

祖父であり、栄光の第三世代が行くことがね、とエリーズは言った。


「何が栄光の第三世代だ」

和樹は顔をしかめてそう吐き捨てた。


栄光の第三世代を説明するにはまず嗣子と庶子について説明をしなくてはならないだろう。嗣子とは言葉通り「前世代の継承者」という意味であり、これはその特殊な能力だけではなく、考え方や理念も含めてのものである。対して庶子とは何らかの能力ないし理念が継承されきっていない者をそう呼ぶ。


こう聞くと庶子とは劣化種族と思われがちだが、実は彼らの大半は第一世代や第二世代から見た庶子である。第一世代、つまり彼らの最初の者達は、その行動理念に忠実過ぎてあまりホモ・サピエンスと馴染めなかった。


やがて生まれた新たな世代──第二世代は第一世代と確執ができた。第一世代から見れば第二世代はホモ・サピエンスの影響が強すぎる劣化種族であり、第二世代から見た第一世代は時代の変化に対応できない化石種族でしかなかった。


この両者は、しかし争いはせずにお互いに無視と不干渉を貫き、お互いが正しいと思う方法でホモ・サピエンスに対しての文明の誘導と支援を行っていた。そこで新たに生まれたのが第三世代である。


第三世代は第二世代よりさらに現実的だった。その当時既にホモ・サピエンスは進化の袋小路に入っており、文明はともかく種族としての進化はこれ以上は見込めないだろうという結論に至ったのである。


──後はもう見守って行けばいいんじゃない?

と言ったかどうかは伝わっていないが、いかにも新世代らしい現実的な判断は、しかし第一第二世代の確執の解消となった。また第三世代は自分たちの世代を中心に互助会のようなものを作ったのである。


これが「栄光の第三世代」がやったことの全てである。調停と組織化と言えば聞こえはいいが、本来の使命であるホモ・サピエンスへの文明の誘導や支援をスッパリ止めてしまったのだ。以降の文明誘導や支援は個々にやっているだけで、第三世代としては一切そういう事はしていない。


そして第一第二世代のお歴々はこの互助会にひとつの条件をつけた。我らの理念を忘れてホモ・サピエンスへの攻撃ないしは支配を目論む者が現れぬかを監視し、もし現れた場合、我らにそれを伝えよ、というものだった。

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