第45話 静かな決裂

「貴方は栄光の第三世代だそうですね」

ファン・ソーメレンは和樹にそう確認した。よく調べてるなあ。


「その貴方がこういう話をされるとは」

ファン・ソーメレンはまっすぐ和樹を見てそう言った。


「自分たちは栄光の第四世代と?」

和樹は少し皮肉げにそう言った。


「ご冗談を」

ファン・ソーメレンは少し笑った。


「貴方がたがそうであったように、私達も互助会を形成しているだけですよ」

ファン・ソーメレンはそう言って一拍置いた。


「それに、私達の多くは貴方がた第三世代以前とは違いますからね」

ファン・ソーメレンは強い眼差しでそう言った。その言葉の意味は重かった。


「他になにかありますか?」

ファン・ソーメレンは紳士的に和樹にそう問うてきた。


「理屈では反論できないが、やはり好ましくない」

和樹は真剣な眼差しでそう言った。が、


「ただそう言えば老害と思われるかも知れないね」

和樹は苦々しげに笑顔を作った。


「今日の事は委員会に伝えるが構わないね?」

和樹は一応そう言った。ここまでの覚悟なら否応はなさそうだが。


「ええどうぞ」

予想通りファン・ソーメレンはあっさりと回答した。


「今日は会えてよかった。ああ、あとひとつ」

ファン・ソーメレンは立ち上がって握手を求めつつそう言った。


「私の祖母はどんな人でしたか?」

意外な質問に和樹はちょっと戸惑った。


「……優しく強い人だったよ。革命がなければずっと一緒だったかも知れない」

和樹は事実の最も美しい部分を並べてそう言った。


もちろんフランス革命がなければ、当時のレオン・マルローは自称マリア・アントーニア、本名クロエ・バルテルという女性と知り合う事はなかった筈だし、その後も何時まで一緒に居られたかなど誰にも判らない。


結果的には彼女が先に出ていった形になったが、あれがもう半月も一緒に居てレオンの身体が完全に回復していたら、先に出ていったのはレオンの方だっただろう。そうならずに一緒に居たかも知れないが、つまりその僅かな可能性を美化して言ってのけたのである。和樹にもそれくらいの忖度、あるいは狡猾さはあるのであった。


「今日は時間を取ってもらってありがとう」

和樹はそんな事はおくびにも出さずに笑顔で握手した。

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