第44話 執務室の会話
和樹はファン・ソーメレンを孫と呼ぶのを躊躇っていたが、ファン・ソーメレンのほうも和樹を祖父と呼ぶのには躊躇いがあったらしい。そりゃまあそうだ。見た目だけなら和樹は多分ファン・ソーメレンの子供より若く見えるし、何より東洋系である。
ファン・ソーメレンは和樹をソファに
「最初に委員会から話を聞いた時はいろいろと驚きました」
ファン・ソーメレンはまずそう話し始めた。
「どういうところがです?」
和樹も丁寧にそう応じた。孫とは言え見た目は彼のほうが遥かに年上だし。
「まず、私などを監視してる事に驚きました」
ファン・ソーメレンは眉を上げてそう言った。
「次いで、私がやっている事を誤解されている」
ファン・ソーメレンは右掌を軽く上げてそう言った。
「最後に、話し合いに来るのがなんと──」
そこまで言ってファン・ソーメレンは口を閉じた。確かにそこが一番驚くかも知れない。なにせ説得に来るのが会ったこともない祖父で、しかもその祖父は東洋系で戸籍上25歳の若造である。
「驚かれるのも無理はありません」
和樹は丁寧にそう言った。
「ですがいくつか説明をさせて頂きたい」
丁寧な口調のまま和樹はそう言った。
「まず監視というほどのものではありませんよ」
つまり君の動きが目立ちすぎただけだ、と和樹は暗に言った。
「また貴方が何をなさろうとしているのかは判りませんが」
そこで一回和樹は言葉を切った。
「貴方はこの証券取引所の最高経営責任者だ。そういう人が何かをすれば──」
ホモ・サピエンスへの影響は大きい、とは言わなかった。言うまでもない。
「貴方がご自身の努力で今の地位に上り詰めた事は称賛します」
一拍あけて和樹は静かにそう言った。
「また、貴方の交友関係について他人がとやかく言う事でもありません」
別に嗣子や庶子の交友が禁止されているわけでもない。
「ただそのふたつが揃えば、それは少し耳目を引くでしょうね」
和樹はそう言って口を閉じた。実はこれ以上の説得材料などない。
「庶子は黙って献金だけしていろと?」
ファン・ソーメレンはふたたび眉を上げてそう問うてきた。
「一方的なものではないと思いますが」
和樹はそう反論した。嗣子でも庶子でも必要なら何らかの支援はされる。それは例えば単純に生活費だったり学費や進路だったりだ。ただ嗣子の場合は成人前にそういう支援が必要なくなるケースが多く、また無償というわけでもないので、結果的に庶子のほうが負担が大きくなる場合が多い。
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