第42話 とろける乙女

「めっちゃ楽しかったあ!」

帰りのタクシーから降りて悠里は嬉しそうにそう言った。


「和樹ほんとにありがとね」

悠里は満面の笑みでそう言った。


「喜んでもらえて良かった」

和樹は紳士的にそう言い、軽くキスをした。


「……和樹って身体触ってこないよね?」

不満というより不思議に思って悠里はそう言った。魅力ないの私?


「じゃあお言葉に甘えて」

と、言うが早いか和樹は悠里の背中と腰を抱いてふたたびキスしてきた。


「…………!」

キスの仕方は変わらなかった。唇と唇を合わせるだけで舌をからませたりはしない。しかし和樹の手が触れた背中と腰に生まれて初めての感覚を感じた。


何と言えばいいのか、温かいような、マッサージでもされているような、でもちっともイヤじゃなく、まるで触られたところが溶けていくような感覚が悠里を満たした。


「……はあ……」

唇が離れると悠里は思わず溜息とも声とも言えない声を出した。気持ちいい……。和樹は顔を悠里の耳元に近づけて小声でぼそりと言った。


「……本番はもっと気持ちいいよ」

和樹の言葉にぞくりとした。思わず目を見開いてしまう。


「まあでも今日はここらへんで」

和樹はいつもの声音に戻っていたずらっぽくそう言った。


「……えっちなやつめ……」

悠里は赤い顔でそう言い返すのが精一杯だった。

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