第36話 大混乱の中で
1700年代中期から末期にかけて、当時のレオン・マルロー、現在の兵藤和樹はフランスで暮らしていた。これは特に理由があった訳ではなく、当時の彼らは生活の安定を求めてヨーロッパ各地を転々としていたのである。
当時のフランスは絶対王政の最後期で、決して暮らしやすい国ではなかったが、反面潜りやすくはあり、レオンだけではなく多くの同族が隠れ暮らしていた。しかしその生活はとんでもない事件により根底から失われた。フランス革命の勃発である。
そしてレオンはものの見事にそれに巻き込まれた。バスティーユ監獄襲撃事件が発生し、その大混乱の中でレオンは負傷したのである。パリからも離れられず家にも戻れずで進退極まった時、とある女性に助けられたのである。
彼女は自分の名前を名乗らなかった。いや名乗りはしたが、
──マリア・アントーニアよ
皮肉げにそう言うだけだった。それはもちろん、王妃マリー・アントワネットの祖国オーストリアでの名前である。
彼女の正体は判らなかったが、恐らく娼婦と看護婦の中間のような人間だったのだろう。後にフローレンス・ナイチンゲールが看護婦の社会的地位を大幅に向上させるまで、看護婦という職業はあまり外聞のいい職業ではなかったのである。
彼女はレオンを匿い介抱してくれた。今の兵藤和樹はもちろん東洋風のイケメンだが、当時のレオン・マルローも瀟洒なパリジャンであり、つまり彼女の趣味に合致していたのかも知れない。
彼女はレオンを求め、レオンも朦朧とした意識でそれに応えた。彼ら一族はホモ・サピエンスよりは生命力は強いが、それでも不死という訳ではない。生命の危機に瀕して、本能的に次世代を残そうとしたのかも知れない。
そうして半月ほども彼女のアパルトマンで世話になっていたが、ある時彼女は帰ってこなかった。数日は待ったが、さすがに空腹と、肉体もある程度は回復していたので、置手紙を残してレオンはアパルトマンを後にした。以降連絡は取れなかった。
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