第27話 欧州からの使者

和樹はまっすぐ自宅のマンションに帰宅した。マンションの地下駐車場に車を停め、エレベーターに乗って4階のボタンを押す。鍵を開けて部屋に入り居間に入ると既に照明がついていて、一人の男がソファに座っていた。


「あれ?」

和樹は男に気が付いてフランス語でそう言った。


「久しぶり」

男もフランス語でそう返してきた。


「勝手に上がられては困るな」

和樹は少し苦情を言った。この部屋に入れた経緯については聞かなかった。


「多分ここが一番居心地いいと思ったからね」

男は悪びれもせずそう言った。


「よくこんな国に住んでられるな」

男は呆れたようにそう言った。


「温泉が多いし住んでみればなかなかだよ」

和樹はそう言ったが内心ではややこの国に飽きてもいる。第一いろいろうるさい。


「新しい彼女とのデートは楽しかったかい?」

男はからかうようにそう言った。


「ああかわいい娘だよ。是非一緒になりたい」

和樹があっさりそう言うと男は口笛を吹いた。


「レオンがそこまで言うとは珍しいな」

男はからかうようにそう言った。


「今はカズキ、ヒョードー・カズキだ」

和樹が言うと男は口を歪めるような苦笑をした。


「発音しづらい名前」

男は和樹の名前をそう評した。


「ところで何の用だアラン?」

和樹がそう言うと男──アラン・ラブレは持参のハイネケンを一口飲んだ。


「ネザーランドでお孫さんがいろいろしてる」

アランは皮肉げにそう言った。


「孫?」

オランダに孫なんか居たっけな?


「ヘルト・ファン・ソーメレンで判るか?」

そう言われてもピンとこない。子供なら例え庶子でも判るが孫となると。


「全く思い当たらないけど、僕にどうしろと?」

和樹は当然の質問をした。


「ちなみに今僕は高校教師だし、知っての通り新しい彼女が居る」

つまり長期間日本を離れられないぞ、と言った。


「そんなのどうとでもなるだろ」

アランは適当な事を言った。


主人マダムのご指名だ。諦めろ」

アランはそう言ってまたハイネケンを一口飲んだ。

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