第14話 あなたはだぁれ?
「それ以前の名前?」
悠里はその点も訊き返した。
「その前は兵藤和興って名乗ってた」
戸籍上の和樹の父親である。
「和興の頃は本当に何もしてなかったなあ」
兵藤は懐かしそうにそう言った。
「あの頃は父の遺産で遊び暮らしてるという体裁だったんだよね」
つまり兵藤和興氏は、そのさらに父である兵藤和臣氏の遺産で自由気ままに遊び暮らしており、そうしているうちに息子和樹が真面目に高校教師になった、という体裁らしい。全て同一人物だが。
「……じゃあセンセすごい爺ちゃんじゃん」
悠里はとりあえずそう当てこすった。
「まあそうだね」
兵藤は何事もなくそう言った。
「……前に子供がどうのって言ってたけどさ」
悠里は気になっていた事を蒸し返した。
「でもセンセそんななら子供いらないじゃん」
兵藤の言っている事が本当だとすれば、自分一人で祖父、父親、今の自分の一人三役こなしているという事になる。
「それは全然違うよ」
兵藤は眉を上げて否定した。
「これは言ってみれば転職してるようなものだし」
子供は子供で欲しいらしい。
「それに僕たちは子供ができにくいんだよ」
だから子供を、次世代を欲しがる気持ちは君たちより強いと言った。
「……君らは本当にすぐ子供できるから判らないかもなあ」
兵藤は呆れるような、羨ましがるような、微妙な顔で悠里を見てそう言った。
「なんか私が遊んでるみたいな言い方は止めてもらっていいですか」
いろいろあったが最後の一線は守り通しているのだ。
校内放送で昼休み終了のチャイムが響いた。今日は久々という事もあって少し長く話し込んでしまったらしい。会話の途中だったが慌てて弁当箱を軽く包み、それぞれ職員室と教室にぱたぱたと走り出す二人だった。
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