三章 彼の秘密
第12話 神の子
「神の子?」
予想外すぎる言葉に悠里は訊き返した。
「厳密には違うんだけどね」
兵藤はこれまたあっさりと言った。
「一族の偉い人がそう名乗る事があるの」
ヤバ、ひょっとして宗教がらみかコイツ?
「祇園祭の稚児みたいなやつ?」
以前ロケで知った知識を思い出してそう訊いてみた。
「ああそういうんじゃない」
そう言った後、兵藤はこの会話が適切ではないと悟ったらしい。
「冗談だよ。僕に秘密なんてなにもないよ」
悠里はなぜかその言葉が嘘だと直感した。しかしそうなると神の子とはなんだろう?
「神の子ってなにをする人なの?」
悠里はそう訊いてみた。そう訊くと兵藤は前言を翻すようにあっさりと答えた。
「何もしないよ」
兵藤はそう言った。
「祭祀とかしないの?」
悠里は続けて問う。
「しないよ。誤解されると困るから言うけど宗教とかじゃないよ」
兵藤は悠里の予想を見越して先にそう言った。
「じゃあなんで神の子なの?」
悠里は食い下がる。兵藤は回答をためらっているように見えた。
「正直に言ってよ。センセなんでも言ってくれるじゃん」
悠里は本音をぶつけた。その正直さがこの男の魅力なのだ。兵藤はうーんと唸って、言葉を選びながら答えてくれた。
「さっきも言った通り神の子っていうのは一部の人間がそう自称してるだけ。大体の人はそんな事は言ってない。もちろん僕もそう。ちょっとした冗談のつもりだった。そしてこれまたさっきも言った通り、宗教とかそういうのじゃない。ただ僕たちには普通の人と少し違う力がある。でもその力を使って何をどうするっていう事もない。ほんのちょっとだけ生活水準を向上させるためにその力を使ったりするだけ」
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