第11話 乙女の強さ

と、そんな事を考えてる頃、悠里はしばらく兵藤と会えなくなった。理由は大した事ではなく、たまたますれ違いが重なっただけである。


しかしそれでも一週間ほども時間が空くと、何事もなかったかのようにビオトープのベンチに押しかけるのもちょっとためらわれるので、それで何となく偶然を装って約束を取り付けたのである。


約束した後、こんなにドキドキする事そのものが自分で恥ずかしかった。なんだよもうしっかりしろ加藤悠里!ちょっと間が空いちゃったから挨拶がてらに行っただけじゃん。楽屋の挨拶まわりと一緒だよこんなの!


と、乙女の葛藤を抱えていてもさすが元芸能人。本番には強かった。


「改めてひさしぶりー」

悠里は全く普段通りの態度でそう挨拶してさり気なく隣に座った。


「なんか久しぶりだよね」

兵藤は珍しく微笑を浮かべてそう応じた。


「なに?機嫌よさそうじゃん?」

悠里もつられて微笑を浮かべてそう応じた。


「久しぶりに会えたからね」

兵藤はこともなげにそう言った。


「そうだよねー」

悠里は軽くそう言ってお弁当の包みをほどこうと──するように見せかけて兵藤から顔を隠した。悠里の髪は長いので、俯けば少し赤くなった顔を隠すことができた。


お弁当を食べつつ、お互いにこのビオトープに来れなかった事情を説明だか愚痴だかをし合った。理由は大したものではなく、兵藤は平日研修、悠里は校外学習の翌日に少し体調を崩しただけである。


「センセって結構謎の人だよね」

悠里は唐突にそんな事を言ってみた。


「そう?どこが?」

兵藤は意外そうにそう応じた。


「なんか謎」

悠里は思った通りの事を言ったが、それが揺さぶりになるとも知っていた。


「謎……まあ言ってない事はあるよね」

兵藤は少し自分の頭を覗き込むようにそう言った。


「例えばどんなこと?」

若い乙女はこういう質問を全く遠慮なくできるのである。


「例えば僕は神の子だったりとかね」

兵藤はあっさりとそう言った。

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