第10話 考える乙女
悠里はまたも兵藤が言った事を考えた。
兵藤はイケメンだがそれは悠里にはあまり響かない。一時期芸能界で過ごした彼女にとっては容姿の良い男など見慣れているし、極端にブサイクだったり身だしなみを整えないようなガサツな男でなければあまりどうでもいい要素だった。
一方で兵藤の素っ気ない正直さは悠里にとって新鮮だった。彼女はそれまでかなり派手で虚飾に満ちた世界の住人であり、兵藤のように何気なくとんでもない事をさらりと言う人間をあまり知らなかった。一部の芸人はそういう芸風だったが、彼らは楽屋では繊細で気難しいのであまり親しみを持たなかった。
──私はセンセが好きなのか?
自問してもよく判らない。ただビオトープで会って以来、雨でも降らなければ大体はあそこで一緒にお昼を食べるようになった。
悠里は兵藤に対してネコ科の大型獣とゴールデンレトリバーを合わせたような印象を持っている。そのマイペースな無表情さはネコ科の大型獣だが、話してみればゴールデンレトリバーのようにじっと相手に付き合ってくれる。ふむ可愛いじゃない。
しかし一方でどこかに謎の部分も感じもする。ネコ科の大型獣という喩えはそういう部分も含めての印象である。
──謎というか
センセは何かを隠しているようには見えない。見てるこちらがセンセの全体像を把握しきれていないように思えるのだ。
──全体像ってなんだよ
自分で思った事に自分でツッコミを入れた。最初に会ってから三カ月しか経ってない人の事を全て知ってるわけがない。
そう思ってもいや実は結構なお金持ちなんじゃないか?とか、実は夜な夜な夜の街でブイブイ言わせてるんじゃない?とかいろいろな妄想をしてしまう悠里であった。
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