第5話 ふたりの出会い

加藤悠里と兵藤和樹の出会いは極めて平凡なものだった。物理の教師が兵頭だっただけである。そしてその出会いは特に何も起こらなかった。


最初に出会ってから数か月の間、悠里は兵藤の事など全く意識しなかった。クラスの友人がイケメンだというので改めて見たらまあそうだね、と思った程度である。


そんな悠里が兵藤への認識を改めたのは実にどうという事もない。ある日の昼休みにたまたま校舎裏にあるビオトープ近くを通りかかったら、兵頭が一人で弁当を食べていたので声をかけただけだ。


──こんなところでお昼?

もし誰かいたら、あるいは目が合わなかったら、悠里は兵藤に声はかけなかっただろう。それくらい意外な場所での、しかしどうでもいい邂逅だった。


──ここ静かなんだよね

兵藤は弁当をもぐもぐ食べながらそう言った。そしてそう言っただけで、それ以上は特に何を言うでもなくそのまま弁当を食べ続けた。


──へえ

そして悠里は翌日、なんとなく自分の弁当を持って校舎裏にあるビオトープへ行って兵藤と一緒のベンチで昼食を一緒にした。


──確かに静かですね

悠里は弁当を食べながらそう言った。


──静かなんだよね

兵藤も弁当を食べつつそんな事を言った。

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