第3話 加藤悠里という生徒

加藤悠里はやや複雑な家庭環境を持つ生徒だった。子供の頃は豊かな家庭に育ち、さらに小学校に上がる前から子役として芸能界デビューしていた。


しかし自分の夢を娘に託し過ぎた母親と、元々あまり芸能界に好意的ではなかった父親の関係は難しくなり、悠里が小学校の高学年になる頃には事実上別居となった。


子役に限らず芸能界は非常に生存競争が激しい。中学に上がる頃になると、子役としても大人としても中途半端という評価になり、後輩の子役たちに出番を奪われる事も増え、さらに家庭の都合も合わさって悠里は半ば芸能活動を休止した。


そのためか中学の頃の悠里は一時期荒れた。母親と一緒に居るのが気詰まりになり、夜の街に遊びにいくことが増えた。しかしそうした生活も、ある時唐突に馬鹿馬鹿しく感じるようになった。


──みんな何も考えてないな


派手で刺激的な夜遊びも慣れてしまえばただの享楽主義でしかなかった。幼い頃から芸能界で歌やダンスを必死に学びつつ、幼いながらに周りの人間関係構築に配慮していた彼女にとっては、本質的な意味での刺激が足りなかった。


そうして彼女は改心というより興ざめした体で夜遊びから離れ、とりあえずは勉強に打ち込む事にした。芸能界に復帰したいのかは自分でもまだぼんやりしていたが、さえやってれば学歴という箔がつくのだからやっといたほうがいい。


そうして妙に醒めた優等生である加藤悠里は、東高草木高校に進学して、兵藤和樹という妙な教師と出会ったのである。

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