一章 出会いから現在まで

第2話 待ち伏せ

──まだかな

加藤悠里はトイレに出たり入ったりしながら彼を待ち続けていた。この女子トイレは階段のすぐ横にあり、彼が階段から降りてきて職員室に入る前に、偶然を装って彼と挨拶を交わしたり少し会話をするのに丁度いいのであった。


──きた

階段の上から彼の白衣が見えた。悠里は慌ててトイレに一回入り、タイミングを見計らってたまたま出てきたように見せかけて彼と鉢合わせを演出した。


「おっと、あらセンセ」

悠里は何気なさそうに彼──兵藤和樹にそう声をかけた。


「おっと、加藤さんか」

兵藤は相変わらず表情があまり変わらない顔で、でも少し驚いたように応じた。


「ちょうどいいやセンセ、あとでちょっと時間もらっていい?」

悠里は自然にそう言った。こんなところで偶然を装って鉢合わせを演出するような気の小ささがあるにも関わらず、いざ当人を前にすると度胸が座る悠里だった。


「ああ大丈夫だよ、いつくらいがいい?」

兵藤は何も察することなく普通にそう応じた。


「じゃあお昼も一緒に食べよ、いつものベンチで」

そう言って悠里は軽く笑って手を振って兵藤の前から立ち去った。立ち去った後で他人に聞こえないか心配なくらい心臓の音が大きく鼓動した。

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