第11話 家宅捜索、手作り弁当
生徒会に入り、いきなりツイッターの運用を任された俺は、手始めに生徒会全員の集合写真を撮った。
フォローは今のところ0。
フォローワーも0。
というか何を発信すればいいんだ?
まあ毎日発信することなんてないし、とりあえず結成記念日とでもしておくか。
「始めまして。写真の真ん中に映っているのが会長で左となりが副会長、右となりが会計、左端が書記、右端が庶務になります。これから学校の出来事などを発信していきたいと思います」
と、これでいいかな?
俺は写真と共に初投稿を行った。
生徒会に支給されているタブレット端末で写真を撮った。
使い方はアヤメさんに教えてもらった。
途中アヤメさんのスマホでツーショット写真を撮ったのは内緒だ。
「まあ、初めてならこんなものかな。でも少し前には考えられなかったなあ」
まだ夢に見る、いじめられた時の記憶。
その傷が癒えることはあるのだろうか。
今は楽しい、アヤメさんもいるし東さん達もみんなやさしい。
でもいつも俺に付きまとうのが、一瞬で崩れ去る不幸だ。
毎回、やめやめ、と気を取り直しているのだが、これが中々治らない。
いい加減うっとおしいのだが、その原因が未だに近くにいると思うと心が、軋む。
◇◆◇◆
「家宅捜索ってどういことだよ、親父!」
「いいから、お前は部屋に戻っていろ、お父さんがどうにかするから」
どうにかって、家宅捜索っていったらあれだろ?
逮捕される前とか後にやるやつだ。
親父が捕まる?
なんで?
クズなのは否定しないが、法に触れたことまでしてたのか?
そんなことしたら、俺の安全が守られないじゃないか。
どうしたらいい、どうしたら……。
逃げよう、どこかに匿ってもらおう。
金ならある、あいつらの家かどこかに、少しの間だけだ、すぐに冤罪で帰ってこれるさ。
クソっ!どいつもこいつも使えねえ。
「親がいるんで無理っすよ」
「ちょっと危険なことには……」
「加藤さんにうちみたいな汚いところ無理ですよ、ホテルに泊まったらどうですか?」
普段は俺にペコペコしてるくせに、何文句言ってんだよ。
俺は拒否するやつらを殴ってその場を去った。
頭なんて下げられるか! 俺に頭を下げるのがお前らなんだよ。
何を間違えた、どこから間違えた。
そうだ、アイツが悪いんだ、アイツさえいなくなれば……
俺は朧気ながら覚えているアイツの家へと向かっていた。
◇◆◇◆
生徒会に入って次の日、いつものようにアヤメさんとお昼ご飯を食べようと、教室を出ると、嬉しそうな顔をしたアヤメさんがタブレットとお弁当をもって待っていた。
「少年、楽しいニュースともっと楽しいニュースどっちから聞きたい?」
「じゃあ楽しいニュースから」
アヤメさんがタブレットを取り出すと、ツイッターの画面を見せる。
フォロワー15000人?
これって多いの?
「多いも多いさ、開設初日としては異例だよ。まあ半分以上野次馬だろうけど。事件の被害者である君がSNSに登場したんだ、目ざとい人はすぐにくるさ」
「はあ、まあよくわからないですけど、よかったんですね。それでもっと楽しいニュースは?」
「今日は私のおお弁当は完全手作り弁当なのだよ!」
「……それで?」
「つれないなあ……そこはすごいですね! じゃあ交換して食べあいましょう! とか言うべきだろう?」
「いえ、自分のがあるので結構です」
「そんなこと言わずに~、君のために作ってきたんだぞ~」
そんなやり取りをしながらいつもの屋上へと向かう。
もはや堂々と使っているあたり、これ暗黙の了解ってやつじゃないのか? と最近思っている。
「さあ、交換こ、しよ?」
猫なで声でアヤメさんが言う。
断れるわけがない。
「はい、それじゃあいいですよ」
俺は渋々お弁当を交換した。
「腕によりをかけたからね、是非味わってくれたまえ」
「期待してます」
本当にちょっとだけ期待してる。
あれだけ自信満々なのだ。きっとおいしそうに違いない。
違った。
ご飯はいい、海苔弁になっている、海苔の下を覗くが普通の白米だ。
問題はオカズ。
おそらく卵焼きのような何か、なんか髪の毛みたいなの見えてるし。
あとサラダ、ただ切って乗せるだけなのに、なんか赤い、これトマトじゃないよね。入ってないし。
唐揚げは、普通だ。
これは冷凍食品だろう。
備え付けのきんぴらごぼうはめっちゃ太い、ごんぶとごぼうだよ。
「どう?自信はそこそこかな」
目を輝かせているアヤメさんに何とも言えない。
「お、おいしそうですね」
「おーありがとう」
アヤメさんは嬉しそうに俺のお弁当を食べていく。
味見とかした?
まあ見た目だけじゃ味は分からないし。とりあえず食べるか。
ん、見た目と違って味は普通だ。
卵の味はするし、サラダもちゃんとサラダだ、何を言ってるかと思うがそのまんまだ。
見た目は置いておくとして、素材の味が損なわれるような味付けはされていない。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした、でどうだった?」
「普通においしかったですよ」
「いいお嫁さんになりそう?」
俺の目を見て、まるで好きな人に聞く様な声でアヤメさんが尋ねてくる。
俺は恥ずかしくなって目を逸らした。
「なれるんじゃないですか」
「ほんとう!? よかった~これが一番最初の愛妻弁当だね」
無意識なのか、ポロっと出た言葉に顔が少し熱くなる。
いかんいかん、こんな冗談に付き合っていたら体がもたない。
「あれ~耳が赤いぞ~、あ、ほっぺについてるよ」
そう言って顔を近づけてくると、ペロリと頬を舐めるようにご飯を絡めとる。
いたずらっぽく笑うアヤメさんに俺はタジタジだった。
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