第7話 発覚

 加藤が家に来た次の日、俺は学校に向かっていた。


 足取りは、重い。


 一度折れた心はそう簡単には治らない。

 刻まれた恐怖は癒されない、それでもあの生徒会長が言ってくれた、必ず助ける。

 その言葉を信じて。


 登校中、いつもみたいに皆からは距離を置かれている。

 ただいつもと違うのは無視をされているのではなく、なにやらひそひそと話をしていることだ。

 俺がいない間に、新しいイジメが起きたのだろうか。

 それを俺のせいにされている? ふざけるなよ。

 俺がどれだけ耐えたと思っている。


 俺は合っているかも分からない苛立ちを込めつつ、教室へと向かった。

 あいさつは、しない。

 したところでどうせ帰ってこないのだから。


 俺が教室について席に座ると、啓二がそばに寄ってきた。


「……なんだよ、何か用か?」

「あの……今までごめん! 何も出来なくて! しかも未だにお金を払っていたのも伝えられなくて」

「……いいよもう、終わったんだ全部」


 そう、終わった。

 終わったと思いたい。

 そうでなくも俺はもうアイツらのいじめに付き合う義理はない。

 みっともなかろうが逃げて逃げて逃げてやる。


「ごめん……」


 啓二の声がその場にこだまする。


 そこにちょうど担任の後藤が入ってきた。

 こいつも何もしない腐った大人の一人だ。

 俺はやつを睨みつける。


 するといつものすまし顔とは違い、気まずそうにしている。

 ? なにかあったのか?


 クラスの雰囲気も少しおかしい気もするし。


「えーそれでは、昨日からSNSで話題になっていることだが、わが校にいじめがある可能性がある。それで中村にはこれから少し話を聞きたいと思うので、この後職員室に来るように」


 なんだ?

 何が起こった?

 があると?

 この学校が!?


 馬鹿な、あんだけ無視をしておいて今更。

 なんにが起きたかのか全く分からず、俺は朝のHRを追えて、後藤に連れられて職員室へと向かった。


 今度はなんだ?

 壮大などっきりでもして、俺の絶望する顔でも見たいのか?

 俺は身構えて職員室へと入る。


 そこには昨日母親が言っていたように電話対応に追われる教師の姿があった。

 昨日もそうだったのに、今日もか……一体何が起きているんだ?


 俺は担任に、こっちだと言われ、校長室へと連れられて行った。

 俺は何も悪いことしていないぞ、まさかいじめの犯人としてつるし上げでも食らうのか?


 嫌な予感ばかりが浮かぶが、もう校長室は目の前だ。

 逃げることも、出来ない。

 ここまで来て何も言わずに帰ってたまるか。


 俺は失礼しますと言って校長室へと足を踏み入れた。


 そこには学年主任と教頭がソファに座っており、校長は一番奥の机の椅子に座っていた。


 その対面に座るように後藤に指示され、気まずいままソファへと座る。

 空気が重い。

 その状況の中で教頭がスマホを取り出して、一枚の動画を見せる。


 これは! 俺が先日的当てをされている動画だ!

 でもこれがどうした? 今までだって無視していたいじめだろ?


「これが何か……?」

「いや、これは君なのか、確認したくてね」

「見ればわかるでしょう! 俺以外の誰に見えるって言うんですか!!」

「いや、そうだな、。済まない、確認は取れた。他にもこれも君かな?」


 そうやってスライドさせた動画には、今まで俺が受けてきたいじめの数々が流れていた。


 こんだけの証拠をそろえながら、何を言いたい。

 全部俺じゃないとでも言わせていじめは実はなかった、これは遊んでいましたとでも言わせるつもりか。


「全部、全部俺ですよ! これは遊びじゃない! じゃれあってるんじゃない! 俺はいじめを受けているんです! 何度も言ったじゃないですか!」


 俺は溜まっていた鬱憤を晴らすように大声で叫んだ。

 大人達は黙っている。


 満足か? これ以上俺に何を求めろって言うんだ。


「分かった。確認は取れた、以上だ。もう結構だ、教室に戻ってくれたまえ」


 校長がそういうと、退出を促された。

 結局何が言いたかったのか分からなかったが、俺のいじめがあったと認めたのか?

 それならこの二日間で誰かが何かをしたことになる。


 あの生徒会長か?

 それくらいしか俺には思いつかなかった。


 俺が教室から帰ると、クラスメイトが寄ってきた。

 突然の事態に困惑していると、周りが色々と言ってくる。


「ごめん、今まで怖くて何も出来なくて」

「ほんとにひどいことされてたんだね」

「味方になれなくてごめん」

「俺達だけでも力になれればよかったのに」

「大丈夫、体痛くない?」



 今までと打って変わって親身になってくれるクラスメイト。

 そうだよ! 少しはお前達が俺の味方になってくれればよかったんだよ!

 今更なんだよ!


 そう思う心も当然あったが、俺達はまだ小学生から中学生になったばかりのひよっこだ。

 上級生の怖さは俺が身をもって知っている。

 咎める気にもなれずに、どいて、と皆を押しのけて教室の席に戻る。


 そこに友人、友人だった一人がやってきて話しかける。


「なあ、これお前だよな。本当に大丈夫なのか?」


 そう言って先程校長室で見せられた動画と同じものを見せられる。

 なんでこいつらも持ってるんだ?

 俺は不思議に思った。


「どこでこの動画を手に入れた。俺もさっきそれを見たばかりだ」

「どこって、知らないのか!? 今SNSで炎上してて、学校もその対応に追われてるんだぞ」


 SNSで?俺はスマホもないし、もちろんSNSはやっていない。

 どういうものかは知っている。確か色々な情報が飛び交うものだと。


「ほらこれ」


 友人だったやつがスマホを見せてくる。


 そこには俺の動画と共にタイトルが書かれていた。




「【悲報】公立中学校、ひどいいじめを隠蔽していしまう。議員の息子が関与か」

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