第5話 神宮寺彩芽(生徒会長視点)


神宮寺彩芽じんぐうじあやめ生徒会長視点――――


 ようやく折れた。この時をずっと待っていた。

 クソっ!予定が台無しじゃないか、加藤共、ただで済むと思うなよ。

 雄太君、こんなに遅くなってごめんね、でもこれで証拠は完全に出揃った。後はこれを――


◇◆◇◆


 当初の予定ではこんなことになるなんて思ってもみなかった。

 彼が入学してくる前に、生徒会長として学校の規律を正し、君が楽しく学校生活を送れるように準備しておくはずだった。


 ただ結局加藤の処遇をどうにかすることだけは出来なかった。

 親が地元の議員で先生達も彼の行動については黙認するばかり。


 学校の膿はすべて出し切っておきたかったのに。

 まあ出来なかったことはしょうがない。幸い加藤は三年生、来年になればいなくなる。

 そうすれば来年からは色々理由をつけて雄太君を側に置くことも出来る。


 そうすべては順調な、はずだった。


 見誤っていた。彼の正義感を。

 彼の父親が警察官で早くに殉職したことにより、彼は母親との二人暮らしだ。

 相談できる相手もいない。

 ここの教師は役立たずだ。


 この一年、一年生ながら生徒会長になって学校の実態を知ったとき、人間はこうも愚かなのかと唖然とした記憶がある。


 本来生徒の模範たる教師が生徒にへこへことするさま。

 お偉いさんが来たときに見せる卑下た顔。


 それでも、一年生と三年生だ、加藤達は学校行事に積極的に参加するわけでもない。

 接点なんてないと思っていた。

 いや、思いたかっただな。


 加藤達が一年生あたらしいおもちゃに出を出さないわけがない。

 それが雄太君の友達だったら?

 その現場を見てしまったら?


 雄太君の取る行動は一つだけだろう。

 私のことを助けてくれた時のように、勇敢に悪に立ち向かう。


 私は学校にはバレないようにカメラを設置してある。

 彼の様子を把握するためにこの一年かけて主要なところに設置しておいた。

 もちろん授業はちゃんと聞いているし、目を放してしまうときもあるが。


 雄太君が職員室で担任の後藤に怒鳴っている姿を確認できた。

 どうやら友達がいじめにあっているようだ。

 君のことだ、首を突っ込むと思っていた。

 同級生同士なら私もしばらくは静観しただろう。


 しかし相手はあの加藤、何をされるかわかったものではない。

 私は急遽カメラの台数を増やし、教師や生徒の目の届かないところ、いじめが行われそうなところにカメラを設置した。

 証拠を残すためだ。


 本当は今すぐにでも助けに行きたかった。

 でも私がいったところでどうなる?

 その場は収まってもまた見えないところでいじめを続けられたら?


 それに私はか弱い女の子だ。

 力任せに何かされてしまっては抵抗のしようがない。

 そんな言い訳をしつつ、彼がいじめられている様子を記録する日々が続いた。


 彼の目は死んでいなかった。

 反抗的な目をすることで、逆に殴られたりすることもあったが、これも貴重な資料だと思い我慢した。

 同時にやはり君は強いと感じさせてくれた。

 ああ、私の目に狂いはなかった。きっとどんな時も私の為に駆けつけてくれる白馬の王子様なのだ。


 彼と恋仲になったらどうしよう。

 私は目の前の現実から逃避するように、妄想に浸っていた。



 加藤達のいじめがエスカレートしていった。

 体育館の倉庫の中で、マットの上で気絶するまで首を絞めたり、外からは見えないようにお腹を中心に殴っている。


 このクソ共が!!

 その目ん玉をくりぬいて、口の中に放り込んでやろうか!

 今すぐ殴り倒そうかと考えるほど私は怒り狂っていただろう。

 それでも彼は屈しなかった。

 一切の抵抗をせず、必死に耐えていた。


 ああ、なんていじらしい。

 段々と彼がいじめられいる姿に妙な感じを覚えるようになってきた。


 この強い意志の彼の心が折れた時、彼は一体どんな行動をとるのだろう。

 その時私が登場して、彼を救って見せたら、彼はどれだけ私に陶酔するだろう。

 は、だめだだめだ。

 そんな邪な考えで彼を助けるのを遅らせるなんて。

 もう証拠は十分に揃ってきた。

 でもまだ決定的なものがないな。


 そうだな、もう少し、観察しよう。

 決して私が彼の心が折れるのを待っているのではない。

 これは必要なことなのだ。


 確実に加藤達の息の根を止めるために、どうしても必要なことなのだ。

 私は自分に言い聞かせるように、カメラ越しに流れる彼の姿を見ていた。

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