第2話 敗北
次の日、俺は不良の目に怯えながらも、職員室に向かい担任の先生に事の顛末を話した。
「だから友達が、啓二がカツアゲをされた上に、根性焼きまでされたんですよ! 学校側で注意してくれませんか」
「う~ん、私はその場面を見ていませんし、何とも言えませんが、田村君に事実かどうか今度聞いてみますね。」
「お願いします」
これで学校側も問題にするはずだ。
いくらなんでもひどすぎる。こんなことを放置するなんてあり得ない。
俺はいくらかの報復を受けるかもしれないけど、停学、転校、よければ恐喝として事件として取り扱ってくれるかもしれない。
まさか中学校に入ってこんなに早くひどい目に合うとは思わなかった。
小学校と中学校、学年が一年違うだけでこんなに差があるとは。不良達の体格の良さを思い出す。
成長期だからな、俺もそのうち大きくなる。そうなればこんなことはさせない、友達を守るんだ。
「では朝のHRを始める」
担任の先生から特にカツアゲについての話は出なかった。
まあまだ啓二から確認を取ってないからな、さすがに俺の情報だけで動くようなことは出来ないだろう。
「田村君は放課後、進路指導室に来るように」
担任の先生が啓二を呼ぶ。
これで啓二から不良達のカツアゲの事実が明らかになって、無事解決する。
俺は少し落ち着きを取り戻し、啓二の方を見る。
啓二は青い顔をして怯えていた。
どうした、後はお前が話せばすべて解決するんだ。
頑張れ!
「それじゃあ日直、号令」
「起立、礼、着席」
日直の言葉が終わり、各々が次の授業の準備と雑談の時間になる。
放課後になればケリがつく。
俺は授業を真面目に受けながら、平和になる中学校を望んでいた。
「カツアゲはなかったってどういうことですか!」
俺は放課後の職員室で担任の先生、後藤に詰め寄った。
「だから、田村君からはカツアゲの事実は確認できなかった。お金は貸したものだと、腕の傷は家で鍋にこすってしまった後だそうだ」
「でも、確かに俺は聞いたんだ、啓二が、啓二から!」
「だから本人が否定している以上、こちらから出来る事はない。何もなかったことにするから今日は帰りなさい」
俺は愕然とした。
何もない? そんなわけないだろ。
啓二もなんで嘘なんて、まさか脅された?
大人しい啓二のことだ。報復を恐れて、もしくは進路指導室に来る前に直接脅されたかもしれない。
自分の余りにも浅慮な考えに苛立ちすら覚える。
中学校は小学校とは違う、こんなにも違うのか。
俺は己の無力感と、大人達の信用のなさを実感した。
「そうだ、啓二は―――」
俺は急いで教室に戻り、啓二の姿を探す。
いない。
ならいつもの校舎裏か?
でも見つけたところでどうすればいい。
俺にアイツらに対抗できる強さはない。
でも俺は許せない、悪いことは是正しなければならな。
例え、俺がボコボコにされても。
俺は急いで校舎裏へと向かった。
そこには不良達がたむろしていた。
啓二の姿はない。
そして不良の一人が俺を見つけるとにやりと笑ってこちらに向かってきた。
「……啓二はどうした」
俺は精一杯虚勢を貼り、自分より一回り大きい上級生に盾突く。
「ああ、あいつの友達だっけ。今日も上納金を貰ったんだ。今日はもう帰ったよ」
「そうか……またあいつから金を毟り取ったんだな」
「悪いか?余ってるやつから貰う。いいじゃねえか、どうせ使わない金だ、俺達が有効活用してやるよ」
その言葉に俺は頭の中で何か切れたように感じた。
そして目の前にいる不良に殴りかかった。
「おっと、あぶねえあぶねえ。いくらちびでも殴られたら痛いからな」
確かに対格差はあるが、俺は小さいころから空手を習っている。
それにここはまだ生徒が多くいる学校だ、騒ぎになれば先生が到着するかもしれない。
以前より希望の持てる戦場に俺は勇気を出して立ち向かった。
「お前ひとりでやれよ」
「はあ?面倒くせえな」
そういうと目の前の不良が構えを取った。
ボクシングか?
腕をあげ、顔面をガードするかのように構えると、横にステップを繰り返した。
「見たところ空手か?今どき流行らない、んだよ!」
不良の放つ右のジャブを左手を使って受け流す。
大丈夫、やれる。
そう思っているとボディに左のアッパーがクリーンヒットする。
「かっは……」
力が違う。
俺は内臓がひっくり返るような痛さに、声も出せずに蹲る。
「な?所詮はその程度、俺これでも結構有望な中学生なんだぜ」
「素人相手になに自慢してるんだよ」
「しかもガキ相手に」
相手は追撃をしてこない。
勝ったと思っていると思ったのだろう。
俺は後ろを向いている相手に腹の中の痛みを抑えて素早く立ち上がると、その股間に蹴り上げを行う。
急所攻撃は基本禁止だがそんなことは言ってられない。
しかし俺の渾身の攻撃は相手の太ももによって阻まれる。
「おいおい、急所攻撃は反則だぞ」
にちゃあと笑う不良が俺の顔面に右ストレートをぶち込んでくる。
俺はその直撃を受け、意識を失った。
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