はるむら さき

ああ、ようこそ旅のお方。

急な雨に降られて、さぞや大変だったでしょう。

古くて汚い家ではありますが、どうぞ止むまでの間、お休みになってくださいまし。


そう、靴はそこの土間にお脱ぎになって、外套はそちらにかけておくと、よろしいでしょう。

今、囲炉裏に薪をくべます。

どうぞ、もっと近くへよって、火にあたっていらっしゃいませ。

ところで、こんな何もない山奥へ、いったいどんな御用があって、おいでなすったので? 見たところ、鉄砲なんかもお持ちでないし、狩りというわけではなさそうだ。


ああ、そうですか。やはり、あなたも…。

いえね、その話の真偽を確かめに、この山へ来る方が、最近とても多いのですよ。

そうですねぇ。私もここに住んで、たいへん永いですが、金銀財宝なんて欠片もでてきやしませんね。

は、は、は。素直なお人だね。

まあ、そうがっかりなさいますな。

もし、財宝なんか見つかっていれば、私もとっくにこんな山奥にはおりません。

そしたら、あなたも今頃、雨の中で濡れ鼠になっていたところでしょう。

それに一時でも幸せな夢を見れたんだ、それで良しとなさいませな。


え?こんなところに一人きりで、住んでいるのは何故かって?

そうですね。雨が上がるまで、退屈しのぎにでもお話いたしましょうか…。

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はるむら さき @haru61a39

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