蛾
はるむら さき
序
ああ、ようこそ旅のお方。
急な雨に降られて、さぞや大変だったでしょう。
古くて汚い家ではありますが、どうぞ止むまでの間、お休みになってくださいまし。
そう、靴はそこの土間にお脱ぎになって、外套はそちらにかけておくと、よろしいでしょう。
今、囲炉裏に薪をくべます。
どうぞ、もっと近くへよって、火にあたっていらっしゃいませ。
ところで、こんな何もない山奥へ、いったいどんな御用があって、おいでなすったので? 見たところ、鉄砲なんかもお持ちでないし、狩りというわけではなさそうだ。
ああ、そうですか。やはり、あなたも…。
いえね、その話の真偽を確かめに、この山へ来る方が、最近とても多いのですよ。
そうですねぇ。私もここに住んで、たいへん永いですが、金銀財宝なんて欠片もでてきやしませんね。
は、は、は。素直なお人だね。
まあ、そうがっかりなさいますな。
もし、財宝なんか見つかっていれば、私もとっくにこんな山奥にはおりません。
そしたら、あなたも今頃、雨の中で濡れ鼠になっていたところでしょう。
それに一時でも幸せな夢を見れたんだ、それで良しとなさいませな。
え?こんなところに一人きりで、住んでいるのは何故かって?
そうですね。雨が上がるまで、退屈しのぎにでもお話いたしましょうか…。
蛾 はるむら さき @haru61a39
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。蛾の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます