第30話

とても温かく、安らかな心地に包まれてる。しんどくなくて、苦しくなくて、怖くなくて…ああ、こんなに穏やかな時間がおとずれるなんて。

美しい白い光がふんわりと取り囲む。

この光が暖かいのかな? ずっと包まれていたいと思う柔らかいベール。

静かにからだを起こしてみる。心なしかスッキリした感じがする。


 なんか…ここって…


回りを見渡してみる。柔らかな光のベール以外、私には感じとることが出来ず…

「どこだろ……」

安心感はあるけれど、誰もいない。

けれど、


 怖くない


明るいからなのかな?温かいから?

目の端に一層白く輝く箇所がうつる。

「ん?」

そちらに照準を合わせると、キラキラした光る橋が架かる。

「すごい…きれい……」

どうぞ、といわんばかりに私の足下から道が出来ていく。立ち上がり、ゆっくりと歩みを進める。橋を渡ろうとしたとき、左手からカランと音を立ててなにかが落ちた。

真っ白な床に、黄色いブレスレットがカラカラと音を立てて、そして静かになる。


 これって……


そのブレスレットを拾う。


 キー……ン


頭の中に流れる声、そして映像。

『お前ら!自分たちのしたことわかってんのか!』

え?裕太兄……?

『裕太さん!ここ病院です!押さえて!』

光麗ミツリさん……?え?なに?病院? どこの?何で病院?

『黙っていたのは俺たちが悪いよ。言い訳はしない』

壽生ジュキくん……?何の話し……?

『今は!二美子さんが目が覚めるかどうかだろ…』

え?輝礼アキラくん……? 私が……

視界がすーっと移動し、みんながいる場所が病室らしきところだとわかる。


 あ……


病室のベットに横たわっているのは

「私……」

『目を覚まして……二美子さん』

え、尚惟ショウイ……。私の手を握って、祈るように自分の額につけている。

泣いてるの……? 泣いてる……!

ふっとそれらが消える。シャボン玉を割ったみたいにパチンっと。


いかん!これはいけません!

私のマイスイートハニーが泣いてる。一大事じゃん!私、こんなに元気なのに、何で病室?……ん?

変なことに気付く


…………


「私……ここにいるのに……?」

さっき渡りそうになった綺麗な橋に視線を合わせてみる。

「きらっきらっですね~」

もう、そこしか行くところない感じが、冷静に考えたら夢幻か、あの世か。

ほんとにこんなことあるんだね。

「渡っちゃいけないやつだね…」

たぶん、渡ったら、安心して逝けるのかなぁ。その方が良いんだろうな。でも、


 帰らないと


しんどくても、帰らないと。

綺麗な美しい橋に背を向けて、真っ直ぐに進む。これでいいのか確証はないけど、思った方へ胸を張って行かなくちゃ。進まないと始まらない。いくら歩いても今度は倒れないんだから!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る