第26話

「どこ行ったんだ?」

琉太リュウタは騒がしい音をかいくぐり、友だちの姿を探していた。


 ひとりにしなきゃよかった……


琉太は後悔していた。このフェスは兄が誘ってくれたものだった。高校を卒業したあと、突然、家を出た双子の兄は、時々、連絡をくれて会っていた。俺よりずっと頭も良くてスポーツもできて、親の期待も大きかった凌平。何があったのか双子の俺にも分からない。が、変わらず接してくれる凌平ならどういう姿でも琉太には関係なかった。

 このフェスにとても興味があったというわけではないが、コロナで鬱積した気分を晴らすのにもいいような気がして。

「雅人も誘ってやったら?」

凌平のその誘いにちょっと迷っていた気持ちは一気に「そうだな」と思えた。

 雅人は二美子とうまく行かなくなってから、人が変わった。そもそも付き合ってすらないのに、あいつはどうしてそういう思考になったのか……。今考えても不思議だ。二美子は、思わせ振りな態度をとるような器用な女じゃない。どちらかと言えば不器用で、そつなくこなせるタイプではない。雅人が気になっている女性なのは気付いたが、あれほど執着するとは思わなかった。今でも何があったのかは分からない。

 今日、雅人が二美子の腕を掴んでいる姿を見て驚いた。夢かと思った。状況を把握するのに少々時間がかかった。

 本来の雅人は悪いやつではないんだ。だけど、二美子の腕を掴んでた雅人を見てから、いやな予感が頭を離れない。

「ったく、でろよ……」

スマホから留守電に移行する案内音ばかりが流れる。

見渡せども、楽しくこの場を楽しんでいる人々が目に止まるだけだ。

 はあ、あと一回電話して諦めるか。

そういう気持ちになったとき、電話のコール音がぷつっとなり終わり、声が聞こえた。

『……はい』

「お前……!雅人、何ででないんだよ!」

『琉太?』

「ああもう、よかった。心配したわ」

『……』

繋がった声に力が抜ける。

ステージとは逆の方へ進路を変える。

「でも、良かった。何かあったのかと思ったよ」

 俺は、特別人がいいわけでもない、天才でもない。雅人は昔から仲の良かった友だちで、ただそれだけだけど周りが色々言っても気にしなかった。友だちってそんなものだろう?雅人もそう思ってくれていたのだろうか…………。

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