第22話

「おう、尚惟ショウイなんて?」

光麗ミツリさんが黄色いブレスを俺につけながら聞いてくる。

「まだかって。一人で心細いんですかね」

「ああ~どうなのかな。あいつああ見えて一番肝が座ってるだろ?別の理由じゃないのか?」


うわっ…鋭い…


 俺たちが呼ばれたのは、当初ブレスをつけるためではなかった。二美さんの顔色が優れないのを察した裕太さんが、長丁場になるからと毛布等を用意してくれたのだ。それを持っていけってことだったのだが、あることから状況が変わった。確保劇に際して、この顔を見つけたら連絡をくれと言われ、写真を見たとき、壽生が「あっ」と反応したのだ。

雅人と一緒にいた友だちだと。だとするならそいつの名は「リュウタ」だと俺がいうと、光麗さんと裕太さんが顔を見合わせた。写真の男は「凌平リョウヘイ」と言うらしく、彼は双子の兄なのだと言う。

と言うことは、壽生ジュキが見た雅人の友だちは凌平の弟だということだ。これが偶然なのか、わからないので裕太さんが万が一のために発信器つきブレスをつけとけ、となったわけだ。

「何も関係ないですよ、俺ら」

「わかってるよ、そんなこと。ただな…」

裕太さんが毛布を手渡してくれる。

「気になるんだよ。この凌平ってやつ、頭いいんだよな、高校まで」

「どういう……?」

「進学校に中学高校と順当には進んでるのに、進学せず姿消してる」

「え?」

「まあ、だからどうってことにはならないけどな、引っ掛かったときは、気にすんだよ」

 引っ掛かったときは、気にする。同じことでは?と思ったが、口にはしない。

「なあ、2人で戻れるか?僕、さっきの情報確認してくるからさ」

壽生にブレスをつけると、左イヤホンを確認する光麗。

「大丈夫っす。じゃあ、行きますね」

俺と壽生は2人に挨拶すると、主催者関係のテントから出た。大きなバンド音がドゥクドゥクと響き、ボーカルの声と交じる。

本来なら楽しめるのだろうが、俺たちには楽しむ余裕がなかった。

 テントから随分離れ、音が一定薄れたところで壽生と目が合う。

「尚惟、何だって?」

壽生が言う。

「二美さん、熱」

俺が答える。

「え、マジか」

「救護テントで解熱剤と経口補水液もらってきてほしいって」

「……熱はどっからの反応なんだろう。疲れ?風邪?……心臓の悪化?」

「おい、壽生…!」

「悪い……」

俺も、壽生の言わんとすることはわかる。発熱は体内に入った異物を体外に出すために、もしくは退治するために、身体が防衛反応を起こしているはずだ。どんな理由であっても、体力が削られる。削られるとき、普通の身体よりやっぱり、しんどいのでは……。


はあ、まったく……


熱出りゃ誰でもしんどいって。心臓、関係ないだろ。しっかりしろよ俺…。

「なあ、輝礼アキラ

「ん?」

「これって裕太さんに話して病院行ったほうがよくないか?」

「……俺も迷ってる。とにかく解熱剤だ。救護テントでもらって、戻ろう」

良くない想像しか出来なくて、二美子さんの笑顔がちゃんと思い出せなくて、俺はどこも悪くねえのに、苦しい。

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