第21話

二美子さんに引き留められて、ずっと手を握っている。


「……行かないで……?」


 さっきの場面を思い出して、思わず頬が綻んでしまう。


 ああもう……めっちゃ可愛い……。


俺の方を見て手を握ってる二美子さん。俺も横になっているので、視線が同じとこで……。いやー目は閉じてるのだけれども…。

「ヤバい……理性が……」

ほんと、もたない。

あんな風に潤んだ瞳で言われたらまずいって。だいたい、二美子さんは今、体調崩してて、おそらく熱があって辛いはずだ。こんなとこで寝てたら悪化するだろ。


俺の気持ちも悪化する……。


光麗ミツリさんが着替えに来て、これから後に逮捕劇が行われるって話をしに来たとき、壽生ジュキ輝礼アキラが連れてかれた。渡したいものがあるという。なので、俺がテントの中に待機することになった。それから間もなく二美子さんが起きたのだ。ずっと見つめてたから、思わずそれが原因で目が覚めたのかと驚いた。

 目覚めたときのぼーっとした感じに、あれっ?と違和感を抱いた。寒いと呟いた気がした。薄暗かったから確証がなくて、思わず手をさわったら温かかった。額に手をあててみたら案の定、熱かったのだ。とにかく、救護テントに連れてくか?まずは裕太さんに連絡してからだな、とか考えてたら……服を引っ張られ……

どうしても引き留められた時の彼女の顔がちらつく。

「ああもう…しっかりしろよ俺」

二美子の寝顔にふれ、愛おしそうに額に手を持っていく。


 二美さん……。


静かに握っていた手をほどき、タオルケットの中に入れる。自分の着ていた上着も脱ぎ、二美子にかける。

スマホを出し、輝礼アキラに電話する。


「あ、アキラ。今いい?」

『おお、今、裕太さんと一緒。二美子さんは?』

「裕太さんにはバレるなよ。たぶん熱ある」

『…………、そうか。今からそっち戻るから、毛布とかもらってくわ。夜、冷えるしな』

「頼むよ。救護テントで解熱剤と経口補水液ももらってこれる?」

『了解』

電話を切ったあと、ほうっとため息が漏れた。

早く戻って来てくれ、これはまずいって。

ランプの明かりに揺れる二美子の姿に、尚惟の顔は赤くなっていた。

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