第15話
「やるなーお前ら」
自分達はテントにようやく戻って来た。テント内では裕太さんと二美子さんが話してる。
ほんとは薬を飲んで休むためにテントで横になろうとした二美子さんを、追っかけて裕太さんが入ってしまったのだ。3人とも慌てたが、裕太さんのシスコンパワーが俺たちを寄せ付けなかった。
「にしても……雅人がいるなんてビックリだわ」
「俺たちだって情報過多っすよ……」
確かに、輝礼の緊張たるや半端なかった。裕太さんが雅人を捻りあげてつれていった後、ぐったりと座り込んだ。俺たちが駆けつけるまで輝礼ひとりで立ち回ったんだから、張りつめていたのだろう。今も、芝生に寝っ転がってる。俺がその場にいたとしたら…輝礼のように振る舞えただろうか…?
「光麗先輩が一緒ってのも知らなかったです」
光麗先輩は俺たちの大学の先輩であり、裕太さんの後輩でもあった。そして、何より二美子さんに好意を抱いていることを最初から公言する男だ。
「ええ?僕だって突然だったんだぞ。あのスーパーシスコンがマイウェイな人なのは知ってるだろ?事件解決と同時にスケジュール発表ってどうよ」
「それは、大変ですね……」
「まあ、二美ちゃんいるからオールオッケーだけどさ」
「「はあ?!」」
尚惟は分かるけど、輝礼の不本意さってなんだ??
「ま、まあ、結果的に来てくれたことが安心材料にはなったわけだから」
2人の表情は晴れないままだが、二美子さんがあんまりよい状態ではないので、彼女を知る人が多くいるのはありがたい。
まあ、難しい想いは交錯するかもだけど…
「何か食うもの買ってきますよ、俺たち」
「あ、そうだな、じゃあこれで」
光麗が5000円札を渡してくる。
「軽食しかないだろうから、それで足りるだろ」
「ありがとうございます。行こう」
2人を促すと、面倒そうに体を起こしついてくる。
「何で買いに行くんだよ、二美さんひとりになっちゃうじゃん」
とアキラ。
「発作起きたらどうするんだよ」
とショウ。
「だからだよ。輝礼、お前後で言うって言ってたじゃん。光麗さんの前じゃ言えないだろ。早く共有しとかねえとだろ?」
と俺。
雅人はいなくなったわけだから、不安材料はなくなったわけだが、俺はずっと引っ掛かっている。
「あ、そうだった」
輝礼は雅人に会うまでの二美子さんの言動を想いだし、俺たちと共有した。
その内容は、俺たちのキャパを越えてくるものだった。
「それって……この場所辛いんじゃ…」
俺たちにはわからない。自分のことなのにどうにもならなくなる恐怖や不安。コツコツ向き合ってくしかないのだろう。頭で分かっていても悔しいな……。
「雅人はもういないけど、1度入ったスイッチって簡単には外せないと思う。目の前で見たから確証がある。理屈じゃねえんだ、きっと。脳が、体が覚えてる恐怖って抑えられねえだろ……」
輝礼の声がすごく沈んで聞こえる。
「俺は、大丈夫って言ってるのを……何を根拠に!ひとりにさせた…何も分かっちゃいなかった…、俺」
こっちは更に堕ちてる……
「俺さ、ずっと気になってることあるんだ。輝礼の話し聞いてもっと、こう引っ掛かるっていうか…」
2人が止まる。
「気になってること?」
「何か不思議でさ。二美子さん、どうして裕太さんをそれほど警戒する?」
2人は顔を見合わせる。
「スーパーシスコンの兄貴だからじゃないの?」
「だよな、やり過ぎちゃうってことを気にしてたんだよな」
「自分のせいでって思うのかな?……それって、ストレスだよね」
尚惟がボソッと呟く。
「二美子さんの心臓が弱るほどのストレスがかかった出来事、逃げ出せたのにトラウマが出来た、落ち着いた頃に急に悪化、悪化したときに雅人に会う……偶然?」
「なに壽生、何が言いたいのかわかんないよ」
「ごめん、俺にもわかんない。けど、なんか順調に苦しんでる感じがして……」
「お前その言い方!」
輝礼がくってかかってくる。
「言い方悪いのはごめん。でも、二美子さんが苦しむ方に転がってる気がして、気持ち悪いんだよ」
そう、変な違和感でしかないんだけど。
「まあ、確かに……。でもだからって何が考えられるんだよ」
「なんかピースが足りないんだよな。だからいやな感じなんだ。ここから早く二美子さんを連れ出したい」
「それは俺も。出来たら今からでも連れて帰りたい」
握った手を見つめながら尚惟が呟く。
「うん」
俺だって、かっさらいたい……
は?かっさらうって……!
「って…!なに考えてんだ俺は!」
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