第14話

尚惟ショウイ壽生ジュキもいる?」

二美子さんを自販機横で下ろして話した後、裕太さんから彼女へ電話が掛かってきた。一人に出来なかったので、少しだけ離れたとこで彼女の様子を見ながら尚惟に連絡する。

『良かった。輝礼アキラと一緒で。帰ってこないから心配でさ、壽生と探しに行こうとしてた』

「おう、すぐ連絡出来なくてわりぃ」


 あの顔見たらどうしていいか分からなくなる


彼女の辛そうな表情が輝礼の脳裏から離れなかった。抱き上げた時、ずっと震えていて、胸が苦しかった。何もしてあげられなくて、そばにいることしか出来なくて、悔しかった。


 あんなに怯えて…………


彼女の受けた心の傷は深い。これからも抱えていくのだろう。必死であがらっている彼女に俺はあんなことしか言えない……。

『輝礼、今どこ』

「テントに近いよ。赤い自販機群の横にあるベンチ」

『ああ、すぐだな』

「なあ……二美子さん、やっぱ随分まいってる。これ、裕太さんにすぐバレるぜ」

『…………何かあったんだな』

尚惟の声が変わる。あいつ、俺ら3人の中で一番線が細そうに見えるが、実のところ1番肝が座っていて、察しもいい。

「ああ、後で詳しく話すわ、とにかくひとりに出来ねえ」

『今、にみさんは?』

「裕太さんから電話かかってきて、話してる。3mも離れてねえ。ちゃんと視界にいるよ」

ベンチで電話をする彼女を目視する。


 ん……?


誰かが二美子に近づいて来ているように見えた。

自販機を利用しに来たのか……?

輝礼のレーダーに何かが引っ掛かる。

「ショウ、ヤバい、雅人だ……!こっち来い!」


何だあいつ、まさかずっと見てたのか!?


迷うことなく二美子のとこにダッシュする。

「二美子さん!!」

ベンチ前に近づき、電話を持っていた二美子の左腕を取り、強引だが引っ張った。胸に引き寄せ抱き締める。

「何か用っすかね」

急いで駆けつけたからなのか、こいつ見て腹立ってたのが再燃したのか、何だか分からんが身体中が熱かった。

空を切った相手の右手がぎゅっと握られた。

静かに視線が俺へと向く。

「お前、誰だよ」

「お前に関係ねえよ」

「二美子、お前最低だな。俺に見せつけてんのかよ」


なんだ、こいつ……


「二美さん、大丈夫?」

「う、うん。ありがとう。意識、おかしくなりそうだった」


だよな……、こりゃ怖えだろ……


「俺の後ろにいて」

「うん」

二美子さんが俺の後ろに隠れるのと、雅人が向かってくるのが同時だった。

「二美子!どこ行くんだよ!」

つかみかかってこようとする雅人の手を止めた。

「何しようって言うんですか」

「そいつは俺んだ」


なんと……?


止めた手を払いのける。と同時に二美子を庇いながら距離をとる。

「二美子、俺以外に何人いんだよ、早く俺んとこ戻ってこいよ。怒ってないからさ」

「何言ってる?」

考えろ俺。時間を稼げ。絶対、ショウとジュキが来る。ダッシュして逃げたとて二美子さんにはきつい。胸に爆弾抱えてる彼女にこのイレギュラーな状態がいいわけない。薬を飲む時間もとうに過ぎてるんじゃ……

「一緒に来てる友だちさんが探してんじゃないですか」

「うるせえな」


お、俺に意識が向いたか?


「フェスまで来た友だちっすよね。きっと探してるって。大騒ぎになってたらヤバいでしょ」

琉太リュウタは俺に不利なことしねえ。どけよ、そいつは俺の……」


リュウタ、個人名が出てきた……


その時

「二美子さん!」

俺たちの斜め後ろ辺りから聞きなれた声がした。

「おせえよ」

駆けつけた尚惟と壽生は二美子さんの手を取り、その場から離れる。

「おいっ!」

「おっと、ダメだよ。渡さない」

追いかけようとする奴と、彼女たちの動線を断つように立ちはだかる。

 壽生は輝礼のとこに戻ってくると、そっと耳打ちする。

ゲートを裕太さんが通ったらしい。

「もう行けよ!二美さんをモノみたいに言うな!」

「うるせえ!何様だ!どけよ!」

やつが向かってこようとしたとき、雅人の後ろに突然、音もなくふわーっと何かが現れた。その姿は段々見覚えのあるモノとして俺たちに認知され……

「てめえ、何やってんだ?」

 俺たちはあんな怖いものを見たのは初めてだ…

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