第12話
遅くなった。
大事なときに限ってこうなるんだよな。事件は決着したと安心してたら、次から次へと…!どーなってるんだ?!安全神話の日本よ!
「全員ぶちこんでやる…!」
「いやいや、先輩、物騒ですよ~」
金色の短髪の男性はニコニコしながら相手の暴言を受け流す。暴言を吐いた男性は舌打ちしつつもそれ以上は言わなかった。
1キロの道を2人の男が歩いてる。他にも何人か急いで向かっている。その先にはフェス会場があり、この2人もそこへ向かっている。
「それにしても、先輩のシスコン、何とかなりません?」
「ああ?」
「このフェス、別に行きたかったわけじゃないんでしょ?」
「
「怖いな~先輩は。けど、あいつら3人はいいんですか?」
「ああ?まあ…、よくもないけど…」
よくはない、よくはないけど。
裕太も複雑だ。
あの一件以来、二美子の普通はなくなった。いつもビクビクしていて、「助けて」って言ってきたのに、何もしてやれない。歯がゆさに俺がどうにかなりそうだった。
そんな時、あの3人組に出会った。二美子をこんな目に合わせたやつを取っ捕まえるために張り込んだ大学で、聞き込んだ3人組だった。実は光麗の後輩でもあったことが分かり、関係性が濃くなったのだ。
あいつらの純粋な態度は二美子にいい影響を与えた。まるで、昔の……、あの一件より以前の二美子が戻ってきたようだった。3人と話していると段々笑顔が増えてきた。徐々に氷が溶けるようにゆっくりともとに戻ろうとしていた。
男は近づけたくねえ。けれど、
「大事に思ってくれてるみたいだしな、二美のこと」
「ええー、僕だって大切に思ってるのに」
「お前、ほんと手え出すなよ」
「ええ…、出したいのに」
スパンっと小気味良い音が響く。
「いたっ!」
「出すな!」
そろそろ賑やかな音も近づいて、あとちょっとで着きそうだ。
裕太、携帯を取り出し、『にみ』にカーソルを合わせ電話する。
数回のコールの後、にみの声が届く。
『もしもし、お兄ちゃん?』
「おう、二美、遅くなってごめんよ。そのーあれだ、大丈夫か?」
『もう…何がよ。大丈夫だよ』
電話の向こう側の妹は、心配しすぎとちょっと笑ってるようだ。電話の向こう側からも賑やかなメロディが聞こえてくる。
「そっか。壽生が連絡くれてたから安心してたけど」
『ええ…壽生くんにそんなこと頼んでたの?もう、恥ずかしいじゃない…』
「だって、お前、お兄ちゃん遅くなったからさあ、心配でさ、」
『うん、わかってるよ。ありがとう』
「おう…。」
あんなことがなければ、二美子にだって一般的な学生生活と恋愛が待っていただろう。それを考えると裕太の心は割れそうだった。
「……先輩」
光麗に肩をたたかれ横を向くと、光麗の携帯らしいモノを差し出された。
「あ?なんだ?」
「課長からです」
「ええ……」
「急ぎだそうです」
光麗はそういうと裕太の携帯を取り、自分のを渡した。
「二美ちゃん?光麗だよー」
『ええ?光麗さん?え?じゃあ、どうしてもフェスに行きたいって言ってた友達って光麗さんだったんですか?』
「えーっと…そいつが急な仕事で僕が代わり~」
人をダシにしてでも妹のデートにデバるのかあの人は…と呆れる光麗。
『そっか。光麗さん、公私ともどもお世話になります』
「いえいえ、二美ちゃんも遠慮せず頼って~」
『ふふ、ありがとうございます。すごく嬉しい』
やべ……どきってした…
二美ちゃんの身に起こったことは、全てを知っているわけではないけれど、先輩が調べて相手に圧力をかけようとした時に、大体の事情を把握した。
いち時期、先輩が有給をとっていたことがある。二美ちゃんのパニックが酷くてひとりに出来なかったらしい。
仕事絡みでちょくちょく顔を会わせていた僕は、比較的彼女に受け入れられた。
ちょっと前までは笑った声なんて聞けなかったもんな。
「もう着くんだけど、ゲートのとこまで来てくれると嬉しいな」
『……わかりました。ゲートのところにいきます』
「ありがと。あーでも、僕、背広じゃないから分からないかもなあ」
いつもはスーツ姿だ。
『でも、綺麗な金色の髪ですよね』
「綺麗って、何か嬉しい……」
『ふふ、だって…きれ…………』
「ん?」
言葉が切れた。え?電波が切れた?
携帯を見直した。電波、電池共に問題ない。
「え?二美ちゃん?もしもし?」
『…………何か用ですか?』
え…………?
一気に緊張が走る。声が変わった。張りつめている。僕に対して話してるんじゃない。
何かあった……!
「二美ちゃん、携帯切っちゃダメだよ、そのままだよ、大丈夫だよ、すぐ行くから」
『…………来ないで』
「二美ちゃん……!」
『雅人』
マサト?……マサト、あの雅人か…? これは、まずい
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