第11話

「…………ショウくん?」

「……怒っています」


 ですよね~……


珍しく、何を言っってもこっちを見てくれず、ほんとに怒ってるみたい。

あの後、3人に随分念入りに、約束をさせられた。体調の変化についても聞かれた。何に注意したらいいのか、薬の種類と数量、通院している病院、そして何より、もう隠してることはないのかと。


隠してること、か……


なんだか苦しい……。けど、これって心臓の痛みかな?それとも、心情的に?

結局、私たちは帰ることにした。が、今からではバスもなく、何とかしてここから1番近い町まで行けたとしても、汽車の始発まで随分時間がある。裕太兄ももう到着するだろうから、朝までここにいることになった。

フェスを体感することは半分だけ叶ったわけだ。無理してあの輪の中に参加する気力が、正直、今の私にはない。誘ってくれた尚惟ショウイたちに本当に申し訳ない。

壽生ジュキ輝礼アキラと一緒に飲み物を買いにいった。

残された私は、このように尚惟に怒られている。

「ほんと、ごめんね」

顔を覗き込むように見ると視線がバッチリ合う。


 わっ……吸い込まれそう……


思わず見とれる私。すると突然ぎゅっと抱き締められた。


 あ…尚惟の匂いがする……


「それって、何に対してのごめんなの?」


 あ…確信ついてきた……。


彼は、優しくて。物腰も柔らかで、真綿のような、ふんわりと包み込むような穏和な外見だ。まるでわたあめのような、マシュマロのような。けれど、とてもよく見ていて、指摘が的を得ている。洞察力があるのだ。しれっとサポートしてくれるとことか、全く周囲におじることなく自分を突き通すとことか、私には、眩しすぎる人だ。でも、ひと度、攻められる方になると、ちょっと逃げ場がない。

「えっと、いろいろ……」

思わずおろおろしてしまう。

「いろいろって?」


 ああ、まじだ……。


わが美しき彼は、こうなると止まらない。

「えっと、せっかくのフェスを楽しめなくてごめんね」

「…………」

突然、抱擁からの解放。顔を見つめられて焦る。そんな綺麗な目で見ないでよ。

「何だかいろいろと面倒に巻き込んじゃって、ごめん。もっと丈夫ならよかったんだけど……年も上なのに……ほんとごめん」

「二美」

「え」

「まじ怒った」


 え…


「そんなことで俺、怒んないよ。本気で言ってる?」

いつもの優しい彼の声だが、クラっとするぐらい真っ直ぐ脳に響いてくる。

「俺に言えないの?」

真っ直ぐに見つめられて、ドッキンが止まらない。ヤバい。心臓が爆発する……。

「にみさんが辛いって話聞くのは、確かに辛いけど、俺の知らないとこで一人で苦しんでるのはもっといやだ」

「尚惟……」

「俺に隠せると思ったんだね?」

「え、隠すというか、迷惑かけちゃいけないと思って、」

「それ」


え、どれ?


「どうして迷惑って思うの?頼れって言ってんじゃん」

「うん………」

「頼れよ」

再びぎゅっとされる。尚惟の背中に手を回す。見た目よりずっと筋肉質で、ドキドキしてしまう。

「楽しいことも、辛いことも俺の横で感じてよ」

「……うん」


これって、きっと彼にはバレてる。私がこのフェスに来たのは、最後の思い出にしようとしていたんだって。

遠出は怖かったから1度もOKしなかった、出来なかった。近くても、デートはできなかった。でも、最後だからちょっと無理してでもと思った。いい思い出にしようと思って……たけれど、結局、彼の顔、間近で見ていたら、諦めたくなくなった。あまりにキュンキュンして、大切で、愛しくて。

ダメだ、感情が溢れる…。

「二美子さん……」

「ごめんね……」

「そのごめんは何のごめんだよ」

「尚惟を好きで、大好きでごめんね……」

「何だそれ……」

後から後から溢れてくる涙を、堪えようとすると言葉がつまる。尚惟が胸元から私を離し、顔を覗く。優しく涙を拭う。

その指が頬に触れるたびに、口に触れるたびに、ドキドキして、

「だから、恥ずかしい」

「いいじゃん、俺の彼女だし。俺しか見てないし、可愛いし、ずっとこうしてたい」

「……甘やかしすぎ」

「二美子だけだよ、他にはしない」


 ダメだ……死んじゃう……


「二美子、好き」

「うん、知ってる」


このまま…死んでしまっても幸せだと思うんだろうな、私。

尚惟にハグされて、記憶がとびそうになる。

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