第4話

 ヤバい…。


二美子ニミコさんの姿が脳裏から離れない。


尚惟ショウイは耳まで赤くなった顔を腕で隠しながら息を整えていた。俺はこの2日、冷静でいられるのだろうか。

彼は今日という日を心待ちにしていた。

運命の出会いだと思った。初めて会ったときクラっとしてしまって、その後の事を覚えていない。壽生ジュキの話だと別にへんじゃなかったとは言っていたけど。

一目惚れなのかな、好きだと、思った。

全部にドキドキした。俺は病気なのかと思ったが、他の人にはそんな感情も起きることもなく、彼女の前だけだった。告白する決心をして彼女に言うまで時間がかかった。その間に誰かが二美子さんを連れ去っていってしまうんじゃないかと怯えた。

思いを伝えた日、うれしいと言ったその声も表情も何もかもが可愛くて、幸せな時間を得た。

「ショウ、二美子さんは?」

気づけば近くに壽生がいた。

「ベンチで休んでる」

「そうなん?何か調子悪いのか?」

「うん、飲み物飲んだら落ち着くかと思って」

「そか。裕太ユウタさんに連絡いれとこうか」

「そう…だな。どの辺りまで来てるかも気になるしね」

「だろ?じゃあ、おれ連絡しとく」

裕太さんとは二美子さんのお兄さんだ。世話焼きな刑事で、いかつい人だ。

不思議な出会いだった。もともと二美子さんは俺たちの大学の先輩なのだが、サークルも学部も違うから接点もなくお互いの存在も知らなかった。それが思ってもない出来事で引き合った。

その事柄は起きない方が良いことだったが、この事がなかったら、おれは二美子さんと出会えていなかったかも……

購入したミネラルウォーターを見つめながらため息をつく。


 はぁ、大分落ち着いた……。


視線を前方へ向けると、多くの人のなかに輝礼アキラの姿が見えた。何を思わず彼の手元を見ると、何やら見覚えのある、馴染みのある、


「おれの携帯…!」

そういえば、なぜか預かってもらったような、、、ヤバい、パニックになっててはっきり覚えてない。おれの携帯で話してるってことはもしや…!

「おい!アキラ!なに、人の電話出てんだよ!」

「え、二美子さんだったからさ、出なかったら心配すんだろ?」

駆け寄るのと、怒るのと、携帯取り上げる動きがほぼ同時に進行する。驚くほどスムーズだ。

「っ…だからって、出るなよ!ーもしもし?二美子さん?ごめんね、おれだよ、…二美子さん?」

『え?二美子?』


 え……


電話の向こう側に俺の彼女がいるはずなのに、別の男の声が聞こえた。

水面が微動だにしないような静けさが俺の回りにだけおとずれる。

『……雅人マサト、何してるの』

二美子の声が聞こえた。


 雅人だって……?


携帯を握りしめ駆け出す。

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