第2話
彼、
とても突然で、思ってもない展開で、けれど、幸せな事柄だった。
「おれ、二美子さんのこと、好きです」
ああ、神様ってこの瞬間のために私を生かしてくれたのか、って思った。
「おれ」って言うまでずいぶん長い時間がかかった。落ち着きがなくて、何の用なのか分からないまま、話を聞いていると、不意に話が止まり、私の名を呼ぶ。数分の沈黙後、「聞いて、」と言った。
「うん…」
彼と私は年が離れている。
私の方が年が上だ。そんな私が彼の存在を知ったのは、偶然。尚惟は兄の可愛がってる後輩の後輩。面倒見の言い兄貴はよくいろんな友だちを家に招いていた。尚惟と出会ったのは兄の家。お互い家をでて独り暮らしをしていたが、あることをきっかけにして、心配性の兄と一緒に暮らすことになった。
それが4年前。
その後、兄の連れてくる様々な「友だち」を知ることになった。
「おれ、二美子さんのこと、好きです」
時間が止まる。心臓も止まりそう。
「私、ショウくんより年上だよ」
「うん」
「たくさん年上だよ」
「……」
「ショウくん、かっこいいから、これからもっといろんな出会いが……」
尚惟の目に力がこもったのが分かった。
言葉につまる。
「俺のこと嫌いですか?」
そんなわけないじゃない。
「付き合ってる人いるんですか?」
告る前にそれ聞くでしょう?
「おれ、二美子さんが好きです」
まっすぐに見つめられ、目がそらせない。
なんてきれいな瞳、なんて美しい姿勢、なんて愛しい存在。こんな人が私を好きだなんて…。ダメだ、感情が高ぶる。こういう思いが私にも沸いてくるのかと…抱いてもいい気持ちなのかと、分からなくなる。
ぎょっとした尚惟があわてて距離をつめてくる。
「え、ちょ、な、なんで、二美子さん、なんで泣くの」
「だって、だって……うれしい……」
「え……」
呟いた後、ゆっくり彼の影が近づいてきて、手をそっと握られて、引き寄せられた。
「二美子さん、そんな風に俺を喜ばしちゃ、歯止めきかなくなるじゃん」
「だって、ショウくん、……私、思ってなくて、こんな夢みたい」
「……!……二美子さん」
「あのね、大好き」
「え」
尚惟、腕の中の二美子を見る。
同じくらいの身長だから、泣き顔が見られちゃうけど……ショウの顔みたい。
「尚惟のこと、好き」
潤んじゃってはっきり見えない、彼の顔。手の甲で涙をぬぐおうとして止められる。
尚惟の手が涙をぬぐう。
「ショウくん、恥ずかしいんだけど」
「ダメ」
「あのね……」
「やだ、離さない。もう俺の彼女でしょ?」
さらっと言いきっちゃって、男前だな。躊躇がない。ダメだ…キュン死しそう。
「……いいの?」
「二美子がいい」
さりげなく敬称をとったな……。でも、可愛いから許してしまった。きっと今、彼は真っ赤だ。
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