第54話 お金が無いの! その5
「おかわりー!!」
ベイルさんがお皿を掲げてオーダーする。
「おれも、おかわりー!!」
ノエルさんもお皿を掲げてオーダーする。
「すいません、サファイヤさん、私もいいですか?」
ナジームさんも申し訳なさそうにお皿を掲げてオーダーする。
「サファイヤ、俺も大盛でおねがいできるかな?」とエルウッドさんも……
みんなが育ち盛りのわんぱく小僧のようにカレーをおかわりをする。
そうでしょう、そうでしょうが。これが当たり前の反応なのです!!
私は秘密基地に帰ってくるなり、地下の食料品売り場で買ってきた食材を使ってカレーを作り始めた。
サファイヤのカレーは豚コマにカレーのルーはハ〇スのバー〇ンドカレーの甘口とS〇のゴール〇ンカレーの中辛を1:1で混ぜて使う。これがカレールーの黄金比なのだ。異論は認めない!!
そして具はシンプルに豚コマ、玉ねぎ、ジャガイモ、人参だ!!そしてそれらをコンソメの素で煮込んでからトマトの水煮缶を入れて味を決める!!
と、作っている最中にふと気が付いたのだが、カレー粉とコンソメの素だけ買って帰れば、豚肉もトマトもニンジンもジャガイモも玉ねぎもこっちで売ってたなー。まいっか、明日から節約すれば。
「ってか、この玉ねぎの赤ちゃんみたいな漬物、おいしーなー」と付け合わせのらっきょを美味しそうにポリポリ食べるベイルさん。
ですよねー。カレーにらっきょは欠かせない。そういや、らっきょってこの世界にもあるのかしら。
「それに、この赤いピクルスもカレーに合うなー」と福神漬けをポリポリ食べるノエルさん。うーん、これも似たようなものこっちにありそうだなー。
「ってか、こういう味の料理、久しぶりに食べたなー」とエルウッドさん。
「はい?カレーは初めてじゃないんですか?」
「ええ、チベール高原でのスノードラゴンの掃討作戦の時によく出てきましたね。こういうスパイス料理は」とナジームさん。
「ああ、そうか、あの時の料理に似てたんだ」とベイルさん。
「でも、あの時は、今日みたいにご飯じゃなくて小麦の薄っぺらいパンと、具も肉やジャガイモじゃなくて豆とかオクラだったよなー。まあ、アレはアレで美味しかったけど」と昔を懐かしむようにノエルさんが言った。
「そのー、チベール高原でのスノードラゴン掃討作戦って皆さんも一緒だったのですか?」
「ああ、その当時は俺達4人は同じ部隊にいたからな、喰うものも一緒だったよ」とエルウッドさん。
「スノードラゴンの掃討作戦ってもう3年前か?」とノエルさん。
「だなー。もう3年も前か……懐かしい」とどこか遠くを見るような目のエルウッドさんだった。
ご飯が食べ終わった後、私は『ブック デポ』で買ってきたビジネス本、『仮想通貨で億り人』を読みながらパソコンをいじくっていた。
「なるほど、このパソコンを使って取引をするのですね」とナジームさん。
ナジームさんにも「仮想通貨」や「先物取引」、そして「FX」の話をしたらあっという間にその仕組みを理解してくれたのだ。経済音痴のエルウッドさんとは全然違う。賢い人っておつむの出来が違うんだねー。
私はナジームさんと話しながら、向こうで落としてきたアプリに基本情報を入力している。既に、『グランド デポ』のフードコートにいる時にWi-Fiを繋げてこのパソコンと私の口座を紐づけておいたのだ。
おしっ、基本情報は入力完了、これで明日、『グランド デポ』に行ってネットに繋げれば、あっという間に私も『億り人』の仲間入りだー、サファイヤ困っちゃう。(三度目)
私は「サバンナコーヒー」にやってくると、今日のお勧めのコーヒーの「モカ」を頼む。
挽きたてのコーヒーの香りと適度な酸味が口の中を麗してくれる。
そして私はいつものお気に入りの席に座ると、ノートパソコンを立ち上げると仮想通貨のアプリを開き、取引所のサーバーにログインする。
サファイヤ……いや、ここでは日渡あかねか。できる女の仲間入りです!!パソコンのキーボードを打ち込む指先が微かに震える。
だって、しょうがないじゃない。全財産の半分のお金を使って今から勝負するのですから。
そして、購入金額に¥500,000と打ち込むとマウスでクリックする。
直後、連携したスマートフォンにメールを受信すると、「日渡あかね」名義で「ベットコイン」0.1bc(日本円換算で50万円)購入した旨の受領証が届いた。
これで私も「億り人」に一歩近づいたわけだ。体の奥底から震えがくるのはきっと武者震いなのせいだろう。
そしてすぐさま、先物取引所のHPに繋げると返す刀で小豆を30万円分購入した。仮想通貨だけなら万が一暴落した場合お金を失ってしまうが、こうやって先物商品にも手を出しておけば、片方が暴落した場合でも片方が上がればトントンになる。いや、片方だけでも儲かるかもしれない。これぞ「リスクヘッジ」というものなのだ!!だって、昨日読んだ「秒速1億円を稼ぐためのFX」の第二章「あなたも先物市場で秒速1億円を稼げる!」に書いてあったんだもん!!
なんていう完璧な作戦なのだろう。水も漏らさぬ計画とはまさにこのことを言うのだと思った。
なのにさっきから、私の目の前にはエルウッドさんがずーっと険しい目で私のことを見ているのだ。
そして、「本当に大丈夫なのか、サファイヤ?」と今日5度目の同じセリフを私に投げかけた。
本当なら今日はナジームさんやノエルさん、いや、ベイルさんでも良かったのだが、なぜだか皆さん、用事があるらしくエルウッドさんが付き添いでやって来た。
すると……「おい、サファイヤ」と声を潜めてエルウッドさん。
「なっ、なんですか、エルウッドさん、目がちょっとおっかないですよ」と私。
「また、いる」と。
「えっ、誰です?」と私。
すると、エルウッドさんは親指をチョンチョンとカウンターの方に向けると、あらあら、昨日見たシンさんご一行がカウンターで飲み物を買っていた。しかも……シンさんも『ブラックデポカード』を持っている。
「へー、お仲間なんですかねー」と私。
みると、シンさん達ご一行は、ミルクたっぷりのロイヤルミルクティーを頼んでいた。やっぱ、インドラの人はコーヒーよりも紅茶なのかなー。
シンさん達は注文のドリンクを受け取ると、店内では飲まずに、慣れた様子で立ち飲みしながら店の外に出て行ってしまった。
「おいっ、サファイヤ、お前ここにいろ。俺はちょっとあとつけてくる」
エルウッドさんはそう言うと、店の外に行ってしまった。いってらっしゃーい。
……1時間後、
おかしい、増えもせず減りもせず、ただまんじりと時間だけが過ぎていく。本来ならば、この時点で10万円くらいは儲かっているはずなのに……それに、エルウッドさんもまだ戻ってこない。どこで道草食ってんだかあのデコスケ。
すると……「待たせたな、サファイヤ」とやっとエルウッドさんが帰って来た。
「何やってたんですかー」……あれ、私は鼻をクンクンさせ「もしかして、エルウッドさん『デポ壱』いってましたか?」
「あ……あれ、分かった?」そういうと自分の洋服をクンクンと嗅ぐ。
「分かったじゃないですよ、尾行してたんじゃないんですか?」
「ああ、尾行してたんだけれど、シン達、また『デポ壱』に入っちゃってさー、しょうがないから俺も気づかれないように『デポ壱』に入って見張ってたんだよ」とエルウッドさん。
「で、カレーを食べてきた?」
「まっ……まあ、な」とちょっと苦しそうなエルウッドさん。
「何食べてきたんですか?」とじとーっとエルウッドさんを見る。
「えーっと、ポークカツカレーの1辛、ライス400gで」とちょっと気まずそうにエルウッドさん。
「なに思いっきりカスタマイズしてるんですかー!!尾行してるんだったら一番安いポークの300でも食べてればいいじゃないですか!!」
「いや、だって、隣の客の食べてるポークカツカレーおいしそうだったからさー」
「それ、尾行じゃなくて、単に食事を楽しんでるだけじゃないですか!!」私だって行きたかったのに!!
「ゴメン、ゴメン、今度あっちでなんか驕るから」
まったくもー、しょうがないなー、まあ、いいか、どうせすぐに『億り人』になるんだから、ポークカツカレー一つにグダグダ言っているようじゃ、『億り人サファイヤ様』の沽券に傷がつくってものだ。
「で、そのシンさんの尾行はどうなったんですか?」
「ああ、あの後、シン達「ブックデポ」で立ち読み始めてなー。
「『デポ壱』に『ブックデポ』ですか。またずいぶんと『グランド デポ』を満喫してますね」
「うん、三人のうちひげを生やした一人がどっか行っちゃったんだけれどそれがちょっと気になるんだよなー」と。
「トイレでも行ってたんじゃないですか?」
「まあ、だったらいいんだけれどなー」
そんなことを話しているうちに、あらあら、残り時間30分を切ってしまった。
じゃあ、また、地下の食料品売り場で買い物をしてから帰るとするか。
私はノートパソコンを落として、「サバンナコーヒー」の席を立ったのでした。
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